イベント・レポート
アマ名人戦奮戦記(PartU)
月日:99年9月3日〜5日
場所:東京 晴海 『ホテル浦島』
【近況報告】
さてさて、平成10年9月7日の、あの奇跡の(^^;)返り咲きから
早1年がたちました。この1年、おかげさまで何やかやと将棋関係
の用件が多く、度々の上京,上阪で、リコ−将棋部の皆様には大変
にお世話になりました。あらためてこの場を借り、御礼申し上げます。
今年4月くらいから、自宅のパソコンにインタ−ネットをつなぎ、
ネット将棋にはまっております。FX将棋部の久米宏さんが主宰
する「将棋倶楽部24」です。
元々のきっかけは、「24」のイベントのひとつとして、24タイト
ルホルダ−との2面指し記念対局を、久米さんから依頼されたのが
始まりです。その企画には既に谷川さん,野山さんも出場されてお
り、私で3人目ということでした。
生まれて初めてやるネット将棋に、相当な不安もあったのですが、
久米さんから実に懇切丁寧にご指導いただき、無事対局を終えた時
には、もうすっかりネット将棋の面白さにはまってしまっていたの
です。
24のいいところは、都合のいいときに同レベルの人との対戦が
可能なこと。早指しモ−ドもあるので、対局不足解消にはもってこ
いです。天草の田舎に逼塞し、日頃まともな対局相手がいない私と
しては、まさに神様の恵み,久米様・仏様(^^)!!の心境でありま
した。
そして約半年。例年の悩みである対局不足をおおいに(^^)解消し
て、今年もアマ名人戦全国大会の会場である東京晴海、ホテル浦島
に参上。そんなわけで(?!)、今年は、いつもよりかはやれそうだな
・・(^^)という希望もほんの少しあったんですよ。
【9月3日(金)】
さて、今年のリコ−メンバ−は、ちょっと淋しいことに若手の山
田くんだけ(もっとも去年は野山さんだけ(^^)でしたけどね)。どう
も高年齢化の影響が端的に出ているようですねえ(^^)。
とはいえ、原因はそれだけでなく、リコ−勢の居住区(超激戦区
ばかり)が最も問題であることは論を待ちませんが・・(^^)。
転勤できる人(^^)はどんどん地方へ来てほしいなあ(K県なんて
お勧めですよ−(^^))。
閑話休題。毎年初出場者が増えているだけあって、レセプション
の会場はどうも雰囲気が変わりつつあります。
昔ならもっとワイワイガヤガヤ(^^)で、終了後も何組かで固まって
夜の飲み屋街に繰り出したものですが、今は「明日のことを考えて」
ってやつで大人しいものです。
山田くんは、ちょっとこちらに挨拶しただけで早咲師匠(^^)の方
へ行っちゃうし、今年はまだ小島(一宏)さんも見えてません。
仕方がないので、古巣の広島勢(宮本,柿本両君)をつかまえて昔
話。その後ホテルの喫茶店で、軽く水割りをなめながら世間話・・
で初日の夜はつまらなく(^^)終了してしまいました。
ちょいと飲み足りないなあ・・なんて思いながらベッドに入った
んですが、これがまずかった。目がさえてなかなか寝つけずゴロゴ
ロしながら夜は更けていきます。
【9月4日(土)】
朝、目を覚まして(この書き出しは昨年も使ったなあ) 起き上がろ
うとしたとき、とんでもないことが起こりました。
曲げようとすると、首筋に激痛(^^;)が走るんです。″あいたあ〜
!!寝違えたあ!!″後悔したときはもう遅い。昨夜ちゃんと(?!)
飲みに出なかったツケがこんなところにくるとは!!
着替えも難儀なほどで、試合初日というのに困ったものです。自分
で首筋をマッサ−ジしながら、昨日までの意気込み(?!)はどこへやら
(^^)。せめて楽な(^^)リ−グ(今時そんなとこないって!!)ならいい
なあなどと、不埒なことを考えたりしました。
さて、開始時刻が近づき、いよいよ対局場に入って予選リ−グ表を
恐る恐る(^^;のぞき込みます。案の定・・というか、骨の折れるパ−
トです。岡山の中田喜文氏,愛知の谷畑安彦氏,そして支部名人の小
泉有明氏!!うひゃあ!!ってなもんです。抽選とはいえ、招待出場
者同士が同じパ−トに入るとは・・・(^^)。残る2人も一筋縄ではいか
ない人ばかりです。
首もよう回らんのに(--)シンドイなあ・・・って思いながら、席に着
きました。
で、予選リ−グ1回戦の相手は、岡山県代表の中田喜文氏。初代高
校竜王(ちなみに私は初代アマ竜王ですぞ(^-^;;))の経験をもつバリバ
リの若手強豪です。今年のアマ竜王戦でもBEST8まで進出してい
ます。とにかくものすごい美青年(^^)で、ウチの娘のおむこさんにした
いくらいの好男子であります。
岡山といえば、かつて(こんな表現使っては怒られるかなあ)は学生
王将・Rチャンピオンの赤畠卓氏がアマ戦代表の常連でしたが、今で
はほとんどの大会で中田氏が代表権を一人占めしているようです。
私も隣県の広島の出身(?!)ではありますが、時代がずれている(ToT)
ため対戦の経験がなく、今回が初手合(やだなあ)となりました。
私の先手で7六歩,8四歩,2六歩の出だし。ここで後手8五歩な
ら、ひねり飛車に行くつもりでしたが、後手の着手は3二金。この手
を見て、飛を横に使いたい気持がムラムラとわき上がってきました。
思えば齢(よわい)30を過ぎてから、ただでさえ貧弱な終盤力に一
層磨きがかかり(?!)、それからの私は徹底して先行逃げ切り型を目指
しております。序盤から隙あらば変化して(相手の得意から逃げて(^^))
自分の土俵に引きずり込む(ラッキ−パンチが当たりやすくする)と、
口でいえばかっこいい様ですが、要は自分だけ得できればいいなあ・・
という、およそ「棋は対話なり」の境地から逸脱した考え方を持つに
至っております(^^;)。
と、いうわけで、3二金を見た私は迷うことなく姑息な陽動振り飛車
へ(^^)。中田氏の対策が注目されましたが、特に工夫することなく先手
銀冠対後手雁木(2二玉型)に落ち着きました。
通常、この形では、後手は矢倉〜居飛車穴熊への組み替えを狙うのが
セオリ−の様ですが、中田氏は早々と3三桂を跳ねて涼しい顔です。
ここまで充分に組めれば、おそらく振り飛車側の作戦勝ちの筈なんで
すけど、具体的に良くする順はさっぱり浮かびません。
後手番なら、とりあえず千日手狙いでじっとしておくくらいの老獪さ
はもってるんですけどね。なまじ先手で陽動振り飛車を採ったばかりに
打開の目を探して苦しむ羽目になってしまいました。(^^あ〜あ!!)
対して中田氏は若いに似ず落ち着いたものです。こちらの狙いを看破
して、1手先に,1手先にと手を殺していく動きは、流石岡山No1と
いえましょう(赤畠くん、おこんないでね)。
いよいよ首が回らなく(??)なった私は、とうとうシビレを切らして見
通しも立たぬままに大捌きを敢行してしまいました。
分かれ自体は幸運なことに、ほぼ互角の分かれを得たのですが、やは
り腰が浮いていたことは否めず、その後の終盤の競り合いで明らかに読
み負けしてしまい(と言うよりこちらは殆ど手が読めてなかった(ToT)),
最後は大差でボロ負け。
図以下△4五銀▲8二角成△8七歩成
▲3三角成△同金右▲3七桂△4四歩
▲4一飛△8八飛・・・
14年前の悪夢(前名人予選落ち!!)が甦るような出だしとなってし
まったんですねえ。
さて、早くも背水の陣の予選2回戦。前に座っているのは愛知の谷畑
安彦氏。若い頃はプロキラ−の異名を持ち、ビッグタイトルの獲得さえ
ないものの、その実力は高く評価されている人です。
過去の対戦は平成最強戦で1局あるのみで、そのときは私の急戦向飛
車が割合上手くゆき、辛勝させていただいています。
本局は相居飛車の出だしから、谷畑氏の趣向で互いに玉頭の位を取り
合う展開となりました。谷畑氏が7六銀〜6六銀とガッチリ位を確保し
ようとしたのに対し、私は1局目の様な手づまりになるのを嫌い右金を
前線に送り出して一気の決戦をはかります。
6四の歩を足がかりに6二飛,6三金型から7四歩、同歩、同金、7
五歩に6五金と激しくブツケていった構想が良く、多少重くとも確実で
切れない攻めになってきました。
谷畑氏も受けきるのは困難と見て玉頭のツギ歩から端に桂を活用して
反撃を狙います。
盤面全体をフルに使ったやりとりの後、こちらが敵飛車を押さえ込ん
でから徐々に形勢が好転してきました。
そして迎えた大詰め。こちらの玉はまだ少し余裕がありますが、モタ
モタしていれば挟撃される危険性があり、ここで決めてしまうべく小考
の後、強引ともいえる角の打ち込みから、飛車切りを敢行しました。
取れば長手数ですが、一応詰みまで読み切っており、会心の寄せのつ
もりでした。谷畑氏も苦吟し、やがて「仕方ないな〜」と呟きながら同
金。以下は私には珍しく読み筋どおりの鮮やかな(^^;)収束。
ところが・・・ところがです。谷畑氏が投了を告げた直後、そばで観
戦していた奈良の平野真三氏が曰く。「飛車切りを取るところで、受け
に効かす角を王手で打っていれば・・」
銀を取って飛車を成り込んだところ。
図以下▲6七同金寄△5八銀▲同金
直△同桂成▲7八王△6八成桂以下
寄りとなったが、図で先に▲1四角!
なら先手勝ちだった。
両者、ガクゼン!!とんでもないスッポ抜けでした!!
そうです。非常に簡単な攻防の角(しかも王手!!)を打ってから飛車
を取られていれば、谷畑氏の玉は全く詰まず、逆に飛車を渡したため私
の玉は受けなしになっていたのでした。寒い−!!
かくしてこれこそホントに首(まだ痛んでました)の皮一枚残って、決
勝ト−ナメントへの生き残りの希望をつなぐことができたのです。
予選3回戦、前に座っているのは、なんと小泉支部名人!前局で岡山
の中田氏に絶妙の寄せを喰い逆転負けしてしまったとのこと。こっちと
しては、勘弁して下さいよ〜(^^;;)のひとことしかありません(笑)。ホン
トになんちゅうブロックでしょうね。推薦出場者同志で予選抜け(予選落
ち?!)を争わねばならないとは・・。
小泉氏は当然ながら元奨励会三段!!退会後あっというまに全国支部
名人を獲得されています。まさに日本将棋連盟がアマ棋界に送り出した
刺客(んな、おおげさな(^^;)!!)のひとりといえましょう。
振駒の結果、後手を引いてしまい、ますます気が滅入ってしまいまし
た。やむを得ず裏技の急戦向飛車に。小泉氏得意の2枚銀を意識した訳
ですが、小泉氏はそれでも5七銀左〜3七桂と船囲い急戦の陣立てです。
互いに駒組が飽和点に達したところで、小泉氏の5五歩交換から戦い
に入ります。ただし、小泉氏とすれば単なる1歩交換から、その後の5
六銀の好型づくりが狙いだった様ですが、先手の5五同角に、こちらは
許さんと強く4五歩とつっぱり、角交換を挑みました。
この順が、2筋の歩交換が入ってないだけに、先手は意外だったよう
です。以下、3三角成,同桂,4五歩と進み、一見すると後手が、無理
をやったかの様ですが、そこで4五同桂が強手。先手4五同桂に5五角
と飛・香両取りをかけ、後手もまんざらではありません。
振り飛車側から△4五歩と突っかけ、
以下△4五桂と捨てて△5五角。
図以下▲7七角△2八角成▲4四歩
△5四銀▲5三桂成△6五銀▲4三
歩成△7六銀▲4四角△4三金!
▲同成桂△1二飛・・・
ここでは形勢自体はまだ難しい将棋ですが、この気合い指しが功を奏
したのか、この後小泉氏に一失が出て、後手優勢に傾き、なんとか大敵
を下して予選突破を果たすことができました。
まさに青息吐息ながら生き残って、ようやく他のリ−グを覗き込んで
みると、山田くんは残念ながら三局目で静岡の前川氏に惜敗。惜しくも
決勝ト−ナメント進出成らずということを知りました。やはり予選を通
過することさえも、年々厳しくなる一方のようです。
初日が終わり、とりあえず肩の荷が下りたところで、昨晩の轍を踏ま
ぬように(笑)、その夜は応援に来ていただいたリコ−将棋部の西田さん,
牧野くん,そして埼玉新聞の小島一宏さんと連れだっていそいそと外出
したのは言うまでもありません。
【9月5日(日)】
一夜明けていよいよ決勝ト−ナメントの開始です。
ちなみに昨日予選通過後の抽選時、ちょっとしたハプニング(?!)があ
り、1回戦の相手はもうわかっていました。なんとなれば・・・・・・
抽選のクジを引くとき、小島さんが言うんです。「12番を引け〜!!
12番を引け〜(^^)」って・・。「11番」が誰を意味しているかは即
座にわかりました(^^)。
残りクジはまだ10枚以上あります。「ンナ、ばかな(^^)」なんて笑
いながら(内心ビクビクして(笑))引いてみますと・・・これが「12番」
なんですねえ!!「1発ツモ〜!!」私の悲壮な声に連盟の石橋さんが
笑うこと、笑うこと!!
てなわけで、朝イチでまだ眠く、そして相変わらず首が回らない悲惨
な状況で迎えた相手は、埼玉代表遠藤正樹氏その人でありました。
遠藤氏については今更申し上げることもないでしょう。でも一応申し
上げますと(^^)、グランドチャンピオン,平成最強,支部名人その他タ
イトル数知れず、尚かつプロ竜王戦で2年連続プロを2人抜き3回戦進
出というアマトップ中のアマトップであります。
私から見れば、彼がスゴイと思うところはその戦績だけではなく、生
来の謙虚さ,礼儀正しさ、そしてずば抜けた向上心(努力)にあります。
純粋アマとして、まさに範とすべき生き神様のような男、それが遠藤
正樹氏なのです。
さて、その遠藤氏との過去の対戦はリコ−時代、それはそれは数え切
れない位あるわけですが、こういった全国大会の舞台ではそれほど多く
ありません。確か、アマ名人戦で2局、アマ竜王戦で1局、平成最強戦
で2局・・あれ?やっぱり多いですねえ(^^)。
戦績はほんの少し勝ち越しくらいでしょうか。ただし、これは昔の話。
飛ぶ鳥を落とす今の遠藤氏が相手では、この年寄り(ああっ・・また問題
発言が!!(笑))ではとても勝ち目はない・・とまでは言いませんが(^^)、
相当分が悪いのは確かです(^^)。
閑話休題。目下田尻−遠藤戦の戦型を対局前に予想できる人は少ない
でしょう。本局はなんと相矢倉に。私の方は、一応昔とった杵柄という
やつですが、遠藤氏の矢倉というのは正直いって意表をつかれました。
だいぶ以前(10年位前かな)に2人の練習将棋で指して、私がボロ負
けしたことはありましたが、それ以来というわけです。結局真の強者は
何を指しても強いということでしょう。
局面は私の4六銀〜3七桂に、遠藤氏は棒銀からいきなり7五歩〜8
六歩の突き捨てで歩損ながら銀を捌いてこられました。いかにも振り飛
車党の矢倉感覚といえそうですが、あの天野高志氏の実戦にも似たよう
な指し方があり、油断できません。
それに“アマの矢倉は、とりあえず先に殴った方が勝ち”というのは、
何を隠そう10数年前に私自身が提唱した(^^;アマ矢倉理論なんです。
自分自身の理論と戦う羽目になってしまったわけですが、仕方がない
ので持ち銀を自玉周辺に張り付けて厚みを作り、4六銀〜3七桂の活用
が効くまで辛抱することにしました。
遠藤氏としても8一の桂馬が活用できない以上、早い攻めは見込めま
せん。よって、角を7三〜5一〜4二と転換し、ついで端を伸ばして第
2次の攻撃態勢づくりです。
機は熟したと見て、私はいよいよ3五歩から決戦の火蓋を切りました。
途中6五歩を突いて、角の好位置への移動を含みに残したのが的を得て、
局面は徐々に指しやすいから優勢へと変わっていきます。
対して、遠藤氏も豪の者,簡単には参ってくれません。自玉の腹にいた
金(?!)まで繰り出してこちらの端を猛反撃。当初、攻めている箇所が違う
とタカをくくっていたらとんでもない。氏独特の恐るべき終盤力を発揮さ
れて、1手違いの形勢にまで持ち込まれてしまいました。
図以下▲7六金△8七歩成▲6七王
△8二飛▲8三歩△7八と▲同飛
△8七銀▲7七金と混戦は続く。
図では平凡に▲3二と△1二王▲3
一と△8七歩成▲7六王で先手勝ち。
双方秒読みの泥沼の中、私が簡単な決め手を逃してしまい、いよいよ
形勢混沌としてきました。ところが、“ええい、ままよ!!”と私の放った
薄い詰めろに遠藤氏気づかず、最後は頓死のような手順で劇的な終局とな
ってしまったのです。冷静に見れば、局面自体は少し残せていたようですが、
半ば朦朧としていたオツムを振り返るに、ラストチャンスを運良く掴めた
・・という気がしてなりません。
大敵を下して2回戦進出。相手は栃木代表の門屋良和氏。1回戦で天
野啓吾学生名人を下しておられます。私とは初手合わせですが、当日門
屋氏の応援に来られていた高野清澄氏(昨年の栃木代表)にお聞きしたと
ころ桐山隆アマ名人,高野氏,門屋氏の3名が、栃木県若手3羽烏と呼
ばれているとのこと。強敵です。奇しくもこの二年間で、私は栃木3強と
全て対戦する羽目になってしまったのです。
先手を引いたので、今大会初のひねり飛車を採用。序盤から急戦含み
に駒組を進めました。対して門屋氏の対策は、かに囲いから、5一銀と
引き、以下4二金左〜3二玉と船囲いに組み替えるという珍しいもの。
恐らく経験がある戦型だったのでしょう。こちらの攻めに耐えつつ玉
頭方面から厳しい反撃を狙ってこられます。
中盤の分かれはややこちらが得したと思いきや、門屋氏は私の一瞬の
隙をぬって玉頭に進めた2六銀を生かし、1六歩,同歩,1八歩〜1七
歩の連打で香を吊り上げてから、2七香!同銀,1九角!!という玉を
無理矢理下段へ落とす強烈な勝負手を放たれました。
図以下△2七香▲同銀△1九角
▲同王△2七銀成▲2八金△2六
銀▲3九桂△1八歩▲同金△3七
銀成▲3四飛でぎりぎりしのぐ。
まったく予期してなかった手順で、瞬間やられたか・・と思いました
が、あきらめずに受けをよく読んでみると結構むずかしい。2〜3筋か
ら殺到されても、7四にいる飛車が王手で3四に回って3筋の受けに効
かす手があり、そう簡単にはつぶれません。結果として辛うじて門屋氏
の寄せを受け止め、反撃に転じられたのは幸いでした。
こちらに寄りがなくなった時点で、門屋氏は観念されたのでしょう。
2四歩,同歩,2三歩と、ようやく後手玉に手がついたとこちらが思
った瞬間に、門屋氏は潔く投了されました。
かくて二回戦を辛勝し、本日の最終局。準々決勝に駒を進めました。
いつもの事ながら、この辺りから変な欲も出てくるもので、“ここまで
来たのだからどうせなら最終日までいきたい”という思いは、皆一様に
もっていることでしょう。
今年のBEST8の組合せは下記の様になりました。
瀬川晶司(神奈川)−宮本浩二(広 島)
加部康晴(宮 城)−古作 登(東 京)
秋山太郎(東 京)−前川英巳(静 岡)
田尻隆司(熊 本)−小野憲三(高 知)
関西勢が1人も残っていないのは意外ですが、昨年の西高東低に比べ、
今年は地域的なバランスはほぼとれているようにも見えます。
ただし、お気づきのように、目を引くのは半数が元奨励会有段者勢で
占められていることです。この傾向は数年前から予兆が見えていたので
すが、これ程明確に現象が現れたのはアマ戦史上初めてのことでしょう。
もっともBEST4は、ますますスゴイ事になりますが・・。
というわけで、準々決勝の相手は高知県代表の小野憲三氏です。
小野氏は、同じ支部名人コンビの永森氏,そして朝日アマ準優勝の西
森氏とともに高知三強といえる人で、もう50歳を超えられているのに
今だに一線級の力を維持されているのには頭が下がります。
過去、同じくアマ名人戦全国大会の予選リ−グで1度だけ対戦の経験
があり、その時は私の四間飛車に小野氏の左美濃三段玉で、辛勝させて
いただいております。
今回は、相矢倉の出だしから、小野氏が右玉に変化。小野氏は、どち
らかといえば受け将棋のようで、攻めさせてカウンタ−を狙うという私
に似た棋風と見受けました。で、必然的に速攻を狙わずじっくり囲い合
う展開となりました。
後手の私の方は金矢倉から4二角,6三銀,7三桂の布陣。小野氏は
3八玉型から4七,5七に二枚銀を並べ地下鉄飛車の構えです。どちら
も充分に組み上げ、不満無しといったところでしょうか。
先に動いたのは小野氏。一見奇異な7九飛(金のお尻に回る)から8八
金と寄り、7五歩を交換してこられました。これがどうも疑問の構想だ
った様です。素直に7四歩,7九飛としたあと、6五歩,7七金に6四
銀の進出が自然で厚みのある攻めになってしまいました。
今更7六歩とは打てない先手は、6七金と形を直して迎え討ちの方針
をとりますが、7五銀とここまで捌けては8筋,6筋の攻めに事欠かず
文句無しの態勢です。
図以下▲6五歩△8六歩▲同歩
△6五桂▲6四歩△5七桂成
▲同金△6四角・・・
結局この後は小野氏の強腕をもってしても挽回かなわず、意外にスン
ナリと押し切ることができました。小野氏としては力が出し切れず、大
変不満の残る内容だったでしょうし、逆に私としては今回の大会で最も
気持ち良く勝てた将棋でした。
さてさて、首が回らない(^^)割には、今日はまずまずの将棋が指せま
した。\(^o^)/ これもネット将棋の効力でしょうねえ。ホントに、久米
様,仏様(^^)です。
大まぐれとはいえ(^^)、2年連続の4強入りですから、前名人として
の責任は果たせたのかなあ・・と、気楽な気分になったところで、そし
てちょっぴり淡い期待を抱いてト−ナメント表を眺めますと・・・唖然。
準決勝は瀬川−加部,秋山−田尻となってるじゃありませんか!!
なんだか場違いなところへ迷い込んだみたいなカンジです。プロに限
りなく近い棋力を持っている人たちの中へ、田舎の腕自慢が紛れ込んで
いる・・・・・(^^;
アマ棋界のためには、やはり1回戦で遠藤氏に負けておくべきだった
と心底思いました。(ホントかなあ)
その夜は、応援に来てくれたリコ−将棋部の牧野,菊田両君。そして
小島さん,宮本君(彼は瀬川氏に負けた)と連れだって、やけ酒(?!)をあ
おりにへこへこと出かけちゃいました(^^)。
【9月6日(月)】
爽やかな朝ですが、気分は最悪(笑)。ベッドの上に腰掛けて、しばし
瞑想(妄想(?!))モ−ドに入りました。まず頭に去来したのが、「このメ
ンバ−では、私のような田舎モンは勝てっこない・・(^^;;」という事実。
関東在住のトップアマのごとく、日常的に奨励会員やプロと研究会等
で手合わせする機会があればまだしも、天草に引っ込んで早5年。将棋
らしい将棋と日常すっぱりと縁を切らざるを得なかった世捨て人(?!)が、
どこまで彼らの将棋についていけるのか・・?
頼みの綱はここ半年の「将棋倶楽部24」だけ。ここまでは絶大な効
力を発揮してくれた「24」ですが、当面の敵である秋山太郎元奨励会
三段にまで通用するとは、流石に思えません。
とはいえ、田舎ボケの私を、今年もBEST4にまで引き上げてくれ
た原動力が「24」であることは間違いありません。
ここは、一番、久米さんの神通力を信じようと思うに至って、ようや
く朝飯を喰う気になりました(^^)。
いよいよ準決勝。将棋連盟の第2の刺客(またまたおおげさな(^^)!!)
秋山太郎氏(東京代表)を相手に迎えました。当然ながら初顔合わせです。
田舎の県代表にとっては過ぎた相手ですが、一応今回は“前名人”と
いう資格で参加させていただいている手前、あまり無様な負け方だけは
避けねばなりません。
ただし、今後のアマ名人戦も、このような展開が続くことは想像に難
くなく、地方在住の純粋アマ代表者にとっては試練の時代が続くことで
しょう。今我々は、ある意味で割り切った考え方が必要になってきてい
るのかも知れません。時代の過渡期というのは、すべからくそういうも
のでしょう。(訳のわからぬことを書いてしまいました。陳謝(^^)。)
振駒で後手になったのにはシビレました。ひねり飛車もできず、矢倉
で勝てるわけなし・・普通の振り飛車では形も作れそうにありません。
残されたものは・・ということで、窮鼠猫を噛む。久々に封印を解きま
した。立石流の採用です。空中分解は覚悟の、決死めいた選択でした。
秋山氏の対策は、いったん8六歩を突いて左美濃を見せておきながら、
後手3五歩に反応して6八銀。これが、対立石流のスグレモノ。流石に
研究がいきとどいています。後手なおも4五歩と立石流を目指せば、7
七銀と角交換を拒否し、次いで引き角から3五歩を標的にしようという
ものです。昔リコ−合宿で、屋敷師範にこの形でボロ負けした記憶が浮
かび上がります。
咄嗟に私は、3二飛と通常の石田流に変化。これは最善の選択だった
と思います。対して秋山氏は、それでも引き角から棒金戦法。後手の石
田流をひとつぶしにしてやろうという考えが明白です。
序盤戦とはいえこの相手には、少しでも気を抜けば、一遍にもっていか
れそうです。3五歩に対する応援の銀の速度計算にはひどく神経を使いま
した。秋山氏は2六まで金を進出させ、次いで5七銀と上がって4六銀を
狙いますが、ギリギリ4五歩が間に合って、後手はなんとか位を確保する
ことができホッとしました。以下は持久戦へと進みます。
このような展開になると、振り飛車側とすればとりあえず満足のいく
形ではありますが、それで勝ちにいけるかといえば、そういうものでも
ありません。しばらくは辛抱のしあいで、打開の糸口を探ります。
秋山氏は玉頭に大きく位を張って悠然とされています。2六金とのバ
ランスは悪いものの後手美濃囲いの進展性を阻害し、こちらが暴れてく
るのを待たれているようです。
このあたり後手番でもあるし,動きにくいしで、千日手も考えました。
あるいはその方が良かったかも知れませんが、敵の玉型を見て(棒金+
玉頭位取りのため、玉が固く囲えない)多少強引でも勝負に出ればいけ
そうな気もします。駒をぶつけて捌き合いになれば勝機があるんじゃな
いか・・・この軽はずみな考えが、せっかく好位置(3四)にいる飛車を、
2四歩,同歩,同飛,2五歩,2一飛と移動させてしまい、あげくの果
て5二の金を4三〜3四!!に持ってきてしまうという愚挙を誘ってし
まいました。
ただでさえ遊ばせておきたい2六の棒金に矛先を向けるとは、何とい
う筋の悪さでしょう!!尚かつ3四金の瞬間に1七桂と跳ねられて何も
できなくなってしまうとは・・・(^^)。端桂という簡単な手で2筋が受
かってしまうなんて、まるで見えてなかったんです。
このやりとりですっかり嫌気がさしてしまいました。“相手も相手だ
し、もう形つくって投げちゃおうかな・・”ってちらっと脳裏をかすめ
たその時、「そろそろ行くかあ・・」 小さな呟きでしたが、しかしは
っきりと耳に飛び込んできたその声は、確かに秋山氏のものでした。
自信満々、“そろそろひとつぶしにしてやろう・・”その呟きはそう語
っているようでした。本局における秋山氏の唯一の誤算は、恐らく無意
識に漏らしたと思われるこの呟きが、消えゆく私の闘志をかきたててし
まった点にありましょう。
7四歩,同歩と位を突き捨てて8六にいる角の角筋を通し、次いで、
5筋も突き捨てて、3六歩。秋山氏は総攻撃の狼煙を上げられました。
あの呟きがなければ、私は半ば観念して秋山氏のなすがままに蹂躙さ
れていたことでしょう。しかし気分的に立ち直った私は、沈思数分。思
いっきりの刺し違え戦術を決断しました。
4六歩,同歩,4一飛。そして3五歩に4六飛!!金損覚悟の大捌き
です。気楽な将棋なら、あるいは並の相手になら結構平気でできる踏み
込みかもしれません。しかし元奨励会三段の秋山氏を前にして、よくぞ
この変化に飛び込めたものです。(自画自賛してどうする(^^;)!!)
図以下▲3五歩△4六飛▲3四歩
△4八飛成▲6八金打△4五桂
▲3三歩成△5四銀▲5三歩△
5六歩・・・
本局のポイントはここでした。金損でも飛車成りの方が大きかったと
分かったのは感想戦でのこと。対局中自分の方がいいと感じたのはかな
り後の話で、とにかく無我夢中でした。秋山氏の不屈の闘志に手を焼き
ながらも、総手数218手。ついに連盟第2の刺客(^^;)を倒し、夢のよ
うな2年連続の決勝戦へと、駒を進めることになったのです。
準決勝終了後、対局者4名と共同通信の橘氏で昼食をとることになっ
たのですが、実はこの時点で私はもう一方の決勝進出者を知らず、さり
とて聞く気にもなれずに(勝者も敗者も同席してますんで)、味もわから
ぬまま箸をすすめてました。
加部氏が小池重明氏の事とか昔話をされ、皆興味深そうに拝聴してい
ましたが、凡夫のあさましさ(?!)、私には耳から耳へ素通りで、とにか
く一刻も早く最後の対局相手をこの目で確認したい(ト−ナメント表を
見たい)思いで一杯でした。(この気持ち、わかってもらえますよね)
ようやくにしてコ−ヒ−タイムとなり、アイスコ−ヒ−をほとんど一
気飲みすると、“ちょっと一服しときますので・・”とかいいながら先
に席を立ちました。そのままそそくさと会場へ(^^;;)。
加部−瀬川戦,瀬川勝ちを確認し、ソファ−に腰を下ろして深々と煙
草の煙を吸い込みます。瀬川晶司元奨励会三段・・・!!それが、今大
会最後の対局相手と知ったとき、あたかも自分が、東京オリンピックの
柔道・無差別級の日本代表,神永選手になったような気分になりました。
圧倒的な体格差を誇る巨人ヘ−シンクを前にして、それでも柔道王国
日本の威信を賭けて、日本国民の期待を担って、勝つことを義務づけら
れた男。その神永選手の心情たるや、悲壮のひとこととして、恐らく今
の自分の心情と同じではなかったか・・(^^;;
アマプロ戦ならいざしらず、ひとつのアマ全国大会で、田舎の力自慢
が、バリバリの(若手の)元奨励会三段勢と三人も対戦する羽目になると
は、恐らく史上空前の出来事だったでしょう。
そして奇跡的に二人まで退け得てこの決勝戦という舞台に立った今、
地方代表の純粋アマの方々の熱い視線を、背中に感じざるを得ません。
何故ならこの現象は、東京オリンピック時の柔道と同じく、決して今回
だけのことではなく、今後も継続して起こるものだからです。
NHK収録開始の直前、古巣広島代表の宮本君が、燃えるような目で
私を見据えて言いました。“田尻さん、頑張って下さい・・”この一言に
秘められた悔しさ、連盟に対するある思い(?!)に胸を打たれた私は“ア
リガト・・・”と言うのがやっとでした(^^)。
さて、例によって対局前のインタビュ−。今年は努めて穏やかに(笑)
地方代表としての模範的感想を述べたつもりです。対して瀬川氏に対す
るアナウンサ−の質問と、その受け答えはなかなか迫力(^^)がありまし
た。「狙ってたでしょう!!」(おいおい、相手がいる前で、んなこと聞
くなよお〜)「・・・ええ、まあ・・」(だったかな?)
熱い照明の中、連盟最後の刺客である(しつこいっちゅうに(^^)!!)瀬
川氏との対決いや、対局開始となりました。振駒の結果、またしても!!
(^^;; 後手です。(あ〜あ。)
かくなれば、立石流はこれしかありません。もう空中分解の恐れなど気
にしている場合ではないのです。どんなに棋譜が汚れても、勝てる可能性
が1%でも高ければ採用するしかありません。
瀬川氏の対策は、意外と穏健策でした。飛先交換から浮飛車に構えたも
のの、後は端や玉側に手数をかけてこられます。私とすれば、いつ3六歩
が飛んでくるかをビクビクしながら待っていたのですが、瀬川氏の読み筋
にはなかったようです。
いつもいっていることですが、現代の立石流は組み上がるまでがひとつ
の勝負。例の最善型に組み上がりさえすれば、例え相手の棋力が格段上で
も、十分に勝負なるというスグレモノなんです。(この辺り4枚居飛穴に似
ています)
4四飛〜2四歩と突けて、序盤はまずまずと思いました。対して瀬川氏
の7五歩は、流石に急所。3三桂に7四歩の嫌がらせを用意しています。
ただしこの形、似たようなプロの実戦がありました。棋戦は忘れましたが、
谷川−森(鶏)戦で、森九段はあえて7四歩を許して指されていました。
一時的に形が崩れても、立石流の理想形に組んでさえしまえば、居飛車
からこれ以上の攻め筋はなく、あとでゆっくり整形できるという考え方です。
生憎その将棋は、多少形が違ったために、その後谷川流の猛攻が炸裂し、
ついに森九段の玉型は整形されることなく終わってしまいましたが、本局
においては、充分に成立する(整形が間に合う)という読みで、3三桂を着
手しました。
瀬川氏はやはり7四歩ですが、以下は怖いくらい読み筋通りに進み、7
三歩と傷を消したところでは、居飛車側からの攻めは全くと言っていい程
なく、作戦勝ちを意識しました。
なお、テレビ解説で森下八段は、2二に銀を置いた状態で2六歩の決戦
をすべきとおっしゃってました。流石に超1流プロの勝負勘と感心しました
が、もう一度あの局面になったとしても、私にはやはり2六歩とは突けそう
にありません(^^)。皆さんはいかがですか?
さて、ここまでは順風満帆できていた私ですが、ついに実力を露呈する
一着を指してしまいました。8二玉の次、7二金と締まった手がそれです。
これが本局における敗着の一手といえば言い過ぎでしょうか。しかし私
はそう信じて疑いません。ここで何故腰を落として7一銀〜7二銀と如何
にも味がよい組み替えを読まなかったのか。たった1手余分に手をかける
だけで生じるメリットのはかり知れない大きさに、今でも唖然とするばかり
です(ToT)。
1手早く玉型を整備してしまったばかりに、動かなくともよいところで
動かざるを得なくなったのは痛恨の極みでした。
数手後の8四歩、同歩、8三歩のクロスカウンタ−が痛かったこと!この
後、私の指し手は全て自分を痛めつける結果になるばかりで、瀬川氏の的確
な指し回しと対極をなします(涙)。
図以下△8三同金▲5四歩△同銀
▲6一角△4三角▲5二歩△4二金
▲5八飛△5二角▲同角成△同金
▲2二角・・・
瀬川氏の手がしなって8七香。ついにどうしようにも抜けられない蜘蛛
の巣に、捕らえられたことを知りました。
ヘ−シンクの巨体が重くのしかかり身動きのとれない神永が“秒読み”
の中で考えていたことは、いったい何だったのでしょう。
「一生懸命やった。悔いはない・・」だったのでしょうか?それとも
・・・?
瀬川氏の最終着手、8三角を見て数秒間、気持ちの整理をしながらそんな
ことを考えていました。また、来年出直しですねえ。
おしまい
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