イベント・レポート

第10回社会人団体リーグ戦第2日

年月日:1999年7月25日(日)

場所:東京港区長谷工体育館

リポータ:西田 文太郎 e-mail : nishida@cs.ricoh.co.jp


〜〜〜夏全開、リコー失速〜〜〜

【いきなり真夏】

 今年の梅雨は、比較的雨も降ったしじめじめもして、近年ではかなりまともな梅雨だった。そして、昨日かおととい、関東地方の梅雨明け宣言が出たと思ったら、セミは鳴きはじめるし、外に立っただけで、いきなり暑い。30度を超す真夏だ。

 日曜日の都心の朝は、人が少なく快適な電車の旅ができる。三田に着くとNECのビルがでんと構えている。いつもなら金属のオブジェや緑の木が憩いだが、うだるような暑さを木々の日陰伝いによけて歩く。

 

【グラチャン戦との同時開催で福音が】

 昨日から今日にかけて、北とぴあで、グランドチャンピオン戦が行われている。そのため、会場にはいつも見かけるアマ強豪の顔がぽつりぽつり抜けている。本来、アマチュアの大会は重ならない方が好ましいのだが、今回だけは、嬉しいことがあった。

 リコーを退社して熊本の天草に居を構えている田尻現アマ名人が、グラチャン戦でさっさと負けてこっちに来てくれている。

久しぶりの勇姿はなんとも心強い。最近は個人戦にしか出るチャンスがないので、私の邪推によれば、久しぶりに、昔の仲間と並んで指したいという、団体戦の独特の魅力に血が騒ぎ、個人戦など落ち着いて指していられなかったのではないかと思う。

【団体戦の機微】

 1局目は事情により“問題外の遅刻”をしたかったので、前日から観戦志願を予約。私の場合は2軍だし、戦力が落ちるわけではないので、すんなり承認される。

 リコー一軍はオール東大とだ。リコーはメンバーの2人ほど遅刻したようだ。アマチュアにとって、激しい平日の仕事の合間、休日の出動はなかなか厳しいものがある。急に暑くなったので、体調の維持も大変だ。

 とはいっても、約束は守らないとね。全体の志気に影響するし、実際にメンバー表交換に遅れると、現実的な戦力ダウンになってしまう。常勝を期待されていない2軍でさえも、メンバーが来ないと不安になるしイライラする。この辺が将棋団体戦の面白さ、難しさで、必ずしも棋力だけで勝敗が決まるわけではない。チームリーダーの立場になれば簡単なことだけど、メンバーとなると、分かっているようで判りにくいことなのかもしれない。何故なんだろう?

 団体戦の魅力にグラチャン戦そっちのけで駆けつけてくる人もいるのに。仕合わせに狎れてしまうと、ついつい青い鳥を探しに出かけたくなるものかもしれない。

 チームの和とか団結力とか簡単にいうけれど、案外磁力線をそろえるのは難しいものだ。とかく団体戦は難しい。だからこそ面白いし、勝利には価値がある。

【瀬良対金子】

 大将は、リコー瀬良司対東大金子タカシ。リコー奇数先手となり、大将戦は後手がごきげん流の中飛車に振った。

 金子さんが何気なく5筋飛車先の歩を交換しに行った。瞬間瀬良のからだが固まった。テレビで、サバンナの猛獣が獲物を捕るシーンを見たことがある。獲物を見つけた猛獣は入念に獲物を追いつめる。次の瞬間、あっという間もなく、獲物に飛びつき仕留めている。ちょうど、瀬良の手がとまったとき、同じ光景にであった。

 そして守りの左銀がさっと出ていった。金子さんは苦し紛れに自陣角を打ち防戦する。瀬良は今度はその角頭に狙いを付け、執拗に攻める。ひたひたひたと。私の頭に浮かぶ直接かつ単純な手は、全て却下される。さあ総攻撃に移るぞとばかり、居飛車の飛車先の歩を切りに行く。さすがにこれは、手を抜いて金子さんが反撃に出る。ここら辺の十数手のやりとりは、私が持った方が負ける局面ばかりだ。

 私には難解な終盤戦を、らくらくと、きっちり読み切って瀬良の会心譜となった。棋譜解説で、瀬良の自戦記をお楽しみに。

【菊田対堀井】

 副将戦は、新居を手に入れることにした菊田裕司対、最近社会人になったばかりの堀井淳之さん。先手堀井さんの四間飛車に対して後手菊田が53銀左から急戦を仕掛けた。角交換だけして、銀は、53に引いた。四間飛車側が銀を引いて飛車をぶつけたら、菊田の飛車は82の定位置に戻った。なかなか面白い形で、この二人が指しているからには定跡に違いない。

 難解ながら、少しづつ菊田がリードしていった。これは是非今度採用してみようと思った。

【田尻対東野】

 三将には久しぶりに田尻が座っている。あいにく盤のこっちがわに時計がおいてあるので、盤のこちらがわがよく見えない。角交換から、東野さんは右玉に組んだようだ。お互い手詰まりのようで、千日手風にもみえるが、田尻が遠くの端から手をつけていった。

 うまく手を作るものだ。じわじわと優勢になっていく。なんでああなっちゅのだろう。

 他は遠くて見えないけれど、牧野が時間で大差を付けてリードしている。ちなみに、1部リーグは40分、30秒だ。

【二軍第1局】

 一軍の大将から三将までリコーが勝ったところで、二軍に戻ってみる。相手は、特別区職員文化会。ライエルだけがまだ闘っている。双方秒読みの中、ライエルはひどく劣勢だ。しかし敵が意味のない玉引きを指した。あれ、逆転するかもしれない…と思ったら、ライエルも下手な王手をしている。傍目八目で、こちらにはよく分かるが、対局者はパニックしているのだろう。

 何しろライエルの振り穴は、玉の守備駒は桂、香のほかには、玉のこびんになぜか金が一枚ぽつんといるだけだ。しかし敵の中段玉が下段に自ら下がっていって、雲行きがおかしくなっているうちに、悪手が悪手を呼び本当に逆転してしまった。ふーん。こんなこともあるんだ。

 他は、負けているようだ。2勝5敗だという。おぼれるものは藁をもつかむというが、吉中神話は、早くも挫折の兆候で、吉中が勝ったにもかかわらず、チームが負けてしまった。今日に限れば、椋木神話が復活だ。蛇足ながら、**神話とは、**が勝てばチームも勝ち、**が、負けるとチームも負けるという、他愛のないことを意味している。

【第2戦は恐怖のクルクルと】

 名前からして狂気のクルクルだ。学生強豪の有志チームで、ユニークな存在だ。今年初参加なので、双方仕方なく4部で指すはめになった。こういうネームバリューのあるメンバーのところは2部から参加でもいいと思うのだが、こちらにすれば滅多に指す機会のない強豪にあたるのも楽しみだ。

 我らが策士吉中は、一泡吹かせようと、パンチのある田中道夫、小林寛史を大将、副将においた。クルクルの大将は、東大の下山知徳さん、副将は中村圭吾さん。

 私は7将で、相手は富樫尚寛さん。かすかに名前を知らないだけ勝てるかもしれないと思う。早速さっきの菊田堀井戦をプレイバックする。おっと、チェスでは「待った」のことをプレイバックというらしい。

 全く同じ形になったので、上手く行くかと思ったら、1個所だけ違っていた。たったひとつ、後手の64歩がついていなかったのだ。知る人ぞ知る、角打ちの筋があったのだ。前例では、先後逆でここの歩をついてあったので角を打つために65歩と突かなくてはならなかったのだ。この一手の差は即死につながった。鋭い寄せは谷川流、光速の寄せ、...もっとも、こちらもだいぶ協力しているのだろうが。

 いやあ、強い。隣の吉中が悔しそうに「投了」を告げた。吉中の相手は、芹田修さん。その声を聞いて私も安心して投げることができた。

 大将戦を観戦に行く。ごつい外観では一歩も引けを取らない田中の将棋は気っぷがいい。あの(^o^)でダンスにも興じているのだ。おやあ、田中さん時間が余っている。いやに優勢だ。何処かで2手指したんじゃないのかなあ? 下山さんが真剣モードで入玉を目指している。田中さんはさっと指すが、緊張しているらしく、時計を押すのを忘れている。向かい側に行って合図を送ろうとしても、盤から目が離れない。だいぶロスってから、田中さん、気づいて、時計を押す。

 一時は、入玉をされかけたが、持ち前の怪力で押し戻し、優勢になった。やがて、下山さんは力なく、投了した。やった…田中さん大金星だ。

 直後に、並べてもらったが、所々の局面しか覚えていない。角交換の相懸かり模様から、田中が端に手を着けて、攻めまくったようだ。

 続いて小林も、攻めている。相手がどの位つよいのか知らないというのは良いことだ。特に小林は、つぼにはまれば強いこともある。5月の大会で私がまぐれながら勝ったので、何を言ってもいいのだ。

 上手く敵玉を仕留めてしまった。小林も大金星だ。うーん、さすがに敵も油断したのだろう。彼は、序盤で俺は下手ですっていう手を指すから。

 しかし、ほかは順当に討死にだ。なにしろ、関向邦人、古田龍生、馬上勇人といった顔ぶれだ。それにしても、このメンバーに2勝もあげるなんて、大したものだ。

【2軍第3局】

 将棋は、やはり観戦よりも指す方が面白い。2軍の第3局は、スマイルという飲み屋仲間のチームだ。私は7将なのでやや気が楽だ。最近研究中の菊水矢倉にしようとするのだが、なかなかその形にはならない。でも、矢倉模様に組んできたので、無理矢理菊水に囲ってしまった。

 途中危なかったが、ややぬるい手を指してもらって、勝つことができた。将棋は勝たないと面白くないが、やや物足りない勝ち方だった。贅沢を言うな!

 菊水矢倉はちゃんとした定跡があるのかどうか知らないが、何局か試した限りでは、自分の中で、ひどく勝率が悪い。自分の気力は棚に上げて、どうもあまり良い戦法とは思えない。端や、飛車角に弱く大駒の交換を迫られると、困ってしまう。ただ、左の桂馬が中段まで跳ねる展開になると、攻めごまが一枚多くなるので迫力が出る。

 まわりは、楽勝かと思ったが、さすがに社団戦はレベルが高い。結構皆苦戦している。ぎりぎりの4勝3敗だった。

【一軍オールスターキャスト】

 一軍の2局目は、蒲田将棋クラブに3勝4敗で負けたという。敗因は、藤森の争奪戦に敗れたことかもしれない。3局目NEC戦、田尻、山田、菊田、瀬良、佐々木、谷川、牧野と並んだキャステイングは壮観だ。これに、野山を、藤森を、南を、豊島をというのは、いくらなんでも贅沢というものだ。

 これで負けるわけがないと、2軍の4局目に向かう。SRAというチームだ。やはり7将で、穴熊の気配を感じたので、右四間から速攻を仕掛けた。で、有頂天になって銀を飛車取りに打ち込んだら、あっさり同飛ととられて、苦しくなってしまった。一通り粘ったが、全く逆転の気配もなく、討ち取られてしまった。ぐグぐグ。。。痛い。ひとりで相撲を取って勝手にすっころんだ図だ。

 でも、チームは4勝3敗と勝っている。

  

【戦い済んで】

 2軍は出だしの連敗にめげず、4勝3敗を二つ続けてしぶとく勝っている。通算5勝3敗とまだ勝ち越している。にもかかわらず、あの豪華キャストの1軍は3勝4敗と、負けたという。通算2勝4敗は、ますます志気が落ちてしまう。

 ちなみに3軍は1局目は7勝0敗と威勢がよかったが、そのあとは、聞くに堪えない。通算3勝5敗だ。

 こういう日は、しっかり反省会をするしかない。

 こうして、三田の街おこしに協力することになってしまった。













完(99年7月28日記)

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