イベント・レポート

第22回三愛会東京支部将棋大会

   〜〜〜優勝を目指して〜〜〜

年月:1999年5月15日(土)

場所:リコー青山本社2階食堂

リポータ:西田文太郎 e-mail : nishida@cs.ricoh.co.jp


【肌寒い土曜の朝】

道路沿いのプラタナス並木、大きな葉っぱの緑が鮮やかだ。営団地下鉄青山一丁目の駅から外苑東通りを六本木方面に歩く。休日のオフィス街は静かでいい。5分ほどでリコー青山本社につく。このところ20度を超える日が続いていたが、今日は最高気温19度という。やや曇った青山の空気はやや肌寒く、とても19度まで上がりそうにない。

リコーの関連会社の集まり「三愛会」が毎年催す将棋大会は、将棋ファンの年中行事の一つとして定着している。今年は私の職場でも数人が参加している。事務局発表によれば70人の参加という盛況ぶりだ。

将棋部の人が半数くらいいるだろうか。これを機会に将棋部に入りたい方はいつでも歓迎なので是非どうぞ。

S、A、B、C、女流の部と5クラスに分かれてスイス式、またはトーナメントが行われる。一回戦で敗れても慰安戦という手がある。それに負けても未だ奥の手がある。高橋和女流プロまたは谷川俊昭アマ六段の指導対局があるのだ。

 

【優勝狙い】

三年前にA級で優勝し中倉女流プロ姉妹と一緒に写して貰った写真が私の宝物だ。妹の宏美ちゃんは、未だ高校生で、ブレザーにミニスカートがまぶしいし、姉君の彰子さんは黒っぽいパンツスーツで、よく似た美人姉妹なのだ。

何故かそれをピークに、合宿や職団戦でも不調を続けていたので、ここらで一つ蘇らなければと、今年は優勝をしたいと思っていた。実は、気高くも美しくかわいらしい和ちゃんと写真を撮ってほしいからだ。

勉強時間は師範の屋敷七段を真似して一日一分だ。問題は、それよりも体調だ。最近腰の調子が悪く、昨夜も針の治療を受けてきたのだが、どうも最近効き目がなくなってきた。我が女房殿は「二本足で立ち上がったのが間違いなんだよ」と、聞きかじりの医学知識で大切なご主人様をけなして悦に入っている。家にいるときは、四つ足で歩いてみたりするが腰の痛みは変わらない。

更にこの一週間鼻の調子がうんと悪くなった。寝ようとして横になると、鼻が詰まって、気持ちが悪いのだ。鼻をかむが、空気しかでない。仕方がないから耳鼻科に行ってみた。レントゲンを撮ったが、特に蓄膿症が悪化しているわけではないという。

結局はハウスダストだろうということで、飲み薬と、スプレーを貰った。まずい、家の万年床を見破られたかも知れない。スプレーをしながら、はなぐすりだからこれが媚薬なら面白いのにと思う。

 

【小手調べ】

そんなこんなで寝付かれないまま、疲れ果てて眠ったらしい。朝、枕元にはちり紙の山だった。おまけに、起きたときは家を出なければならない時間で、とるものもとりあえずバスに走る。

荻窪から丸の内線にのって、小手調べをすることにした。「将棋世界六月号」の「あっという間の3手詰」をやってみる。おっと、いきなり一問目でつまずいてしまう。角の間接王手を自分の飛車が遮っているので、空き王手の筋だということはすぐに分かるのだが、飛車を横に動かすと縦方面に逃げられるし、逆に飛車を縦に動かすと横方面に逃げられる。ぼんやりした頭に飛車を動かすのは3手目にしろというコマンドが飛んだのはだいぶ経ってからだ。

仕方がないから乗り換えの赤坂見附までには全11問は終わらせようと思う。見附につく寸前に解き終わったが、一問に、2分もかかったことになる。まあ、未だ頭が動いていないのだからと、自分で慰めておく。

 

【Aクラス1回戦】

ぎりぎり開始時刻に到着して、トーナメントのくじを引いた。A11という札で、なんと相手は徳増さんだ。同じFAX関係の仕事が長かったこともあって、気の合う仲間だ。それだけに少しやりにくい。

トーナメント表を見ると、どちらが勝つにしろ、次からの相手は小林・中原・宮田の順だなと思う。

徳さんのうまい振り駒で、後手になってしまった。お互い居飛車が多いので、横歩取り模様になった。盤上で、こんな会話をしながら序盤は進んだ。

徳さん「名人戦の再現といきますか」

私  「いいね、今年は後手も勝ってるし」

徳さん「あれ、△33角は後手負けてだじゃない」

私  「うん、谷川将棋を改良するんだもん」

徳さん「ふぁふぁふぁふぁ、ホントは、△33桂って、知らないんでしょ」

 

 私は、流行には敏感なので、当然中座流の△85飛車から△42銀△51金と囲う。勝率が高いというだけですぐに飛びついてしまう。そのくせ、手順も意味も理解していないので、すぐにおかしくなる。

 長考一番、徳さんは▲77桂と跳ねて、85飛車を追い払いに来た。まずい、△74歩を突けなくなる。しかし飛車を取られるわけには行かないから、△82飛車と引っ込む。それから、一方的に押しまくられることになった。

 しかし、徳さんとのこれまでの対戦成績は公式戦で勝率100パーセントだ。といっても1勝だけだけど。そして、なんとなくきっと勝てると信じていた。やがて秒読みが始まって、期待の悪手、疑問手が出始めた。最後は、敵玉の逃げ道を桂馬で封鎖して逆転した。

 今、将棋世界六月号を見ると、なんと、中座四段が新連載で、講義を始めている。気づくのが遅かった。なにしろ、三手詰に手間取っていたもので。

 

【Aクラス二回戦】

 二回戦は、やはり小林君だった。舌好調同士の竹中戦を制してきたのだろう。小林君は、銀損の攻めを得意技にしているということで、如何に筋が悪いか想像がつくだろう。又、角を二枚もつと急に強くなる。リコー二軍に入るかどうかという辺りをうろうろしている。一応若手有望株だ。感想戦でやたら元気になるのが、うるさいけれど。

 そして、過去の対戦で、私は一度も勝った記憶がない。

 昨年の夏合宿の頃は体調を崩して不調だったが、今日はあいにく顔色がいい。珍しく年功序列を重んじて私に「王将」をくれた。いいとこあるじゃん。

 少し脱線するが、じつは、この「強い方(上位者?)が王将、弱い方が玉将」というの、好きではない。これから雌雄を決するのだから、当然同格で戦いたい。まあ、対局中にどっちが先手か、周りの人に分かるようにする目印として使うならいいけれど。

 ついでに、同じ理由で、タイトル防衛戦以外では上座下座も嫌いだ。又、防衛戦で、上座下座をいうなら、初戦は挑戦者が先手というのが自然だろう。今の制度が、古い因習を無批判に踏襲しているとしたら、検討の余地があると思う。

 

 初手▲26歩とやってみた。相掛かりも、覚えたいと思う。しかし、敵は立石流できた。しかも、早めに角交換をいどんできた。それが定跡なのだろうか、実は知らないのだ。まあ、気合いからいって私のレベルでは、交換する一手だ。

 その後、何を間違えたのかよく覚えていないが、飛車が成り込めて有利になった。しかし、敵は立石流の左翼の金・銀に更に、角と差し違えた金をはって、私の飛車を封じ込めた。

 仕方がないので、中央にと金を作って、飛車を切って食いつくことにした。が、持ち駒が少ないので、怪しい雲行きになった。敵は、切れ筋に誘導して楽観したらしく、終盤で、悪手っぽい金を打った。それをとがめて、勝つことができた。

 最後「詰ましてよ」といわれたのが、簡単な三手詰だった。金捨てを思いつかず、詰むはずと思いながらも、必死をかけたのだった。

 それでも、私には貴重な白星だ。小林君には一度勝ちたいと思っていたので、とても嬉しい。

 

【周りを見ると】

ピンクのジャケットを着こなして和ちゃんが指導対局をしている。私はそれが狙いの一つだが、未だ一度も実現していない。おしゃべり対決で、小林君に負けた竹中ちゃんが和ちゃんと指している。後で聞いたら、平手で相振りにして勝ったという。去年も勝ったというから、和ちゃんは、品のないやつは苦手なのだろう。おっと手が滑った。冗談じゃけんね。和ちゃんは教え上手だなあ。





Cクラスには特別参加の、マジシャンのMistyミューさんや、神谷陽子さんがあでやかな衣装から美しい足をすらりと出して、対局している。

昼休みには、トランプで、カードのマジックも披露してくれていたようだ。

紅一点のマドンナ西川晶ちゃんを励ますために設けられた女性の部は、JR大森駅の近くに「微酔亭」を開いている笠井妙子さんと、京都にお住まいの景谷さん。肝心のマドンナはおめでたい結婚式を明日に控えているのでやむなく欠席となった。

それなら、あのお二人のマジシャンをこちらにいれて、4人で女流の部を作れば良かったのにと思う。

 

【Aクラス3回戦】

 3回戦は早くも準決勝だ。相手は予想通り中原さんだ。職団戦で、東京リコーチームで活躍をしている強豪だ。私は、一度教えて貰ったことがあるが、もちろん、勝率0パーセントだ。

 振り駒は珍しく「歩」を多く出して先手となった。後手の四間飛車に対して▲57銀左にした。すると、香車も上がらず、54も64も歩をつかないまま、△14歩と、様子を見に来たので、▲46銀から▲35歩と仕掛けてみた。

 飛車角交換から、飛車を打ち込んで有利になった。しかし相手は強豪なので、どうもこちらの手が伸びない。ふるえっぱなしで、受けて切らせる作戦に切り替えた。これは結構難しく、一歩間違えて、堤防をくいちぎられるとあっという間に負けてしまう。

 亀が甲羅に首を隠すようにびびりながらも守りきって、やっと寄せに出た。最後は、中原さんの形作りの協力もあって、きれいな即詰みに仕上げることができた。ふう、上出来上出来と思いつつ、嬉しさは隠せない。

 

【Aクラス決勝戦】

決勝の相手は、宮田君だ。今年入社したホープだ。耳が聞こえにくいのと、しゃべるのが大変なのとで、苦労は絶えないだろうに、明るくさわやかな新人だ。





後手番となり、矢倉模様に進む。△55歩から中央に戦いの場を求めていく。リコーに入社して初めての大会なので遠慮があるようで、おとなしく駒組をつきあってくれたので、作戦勝ちになった。角の睨みを効かせたまま、△86歩から△65歩と仕掛けて、好調だ。

終盤、二通りの詰筋があると思っていて、手拍子で、飛車成りのコースを選んで、すぐに間違いに気づいた。窓の外に大きなクレーンが白い雲に突き刺さっているのが何本も見える。向かいのヘキストジャパンのビルが跡形もない。私の営々と築きあげた楼閣もあのクレーンの餌食になるのかと恨めしくなった。

それでも冷静に対処して、読み直せば未だ、勝ちは残っていたものを、つい、同じ筋にこだわってしまい、逆転一直線を演じてしまった。

うーん、無念無念。でも、新人にいいプレゼントができた。宮田君、これからも頑張ってね。

Sクラスでは、菊田さんが優勝、意外にも初めてとのこと。準優勝が、主将の野山さん、藤森さん、牧野さんという順だった。





Bクラスは岡田進君、Cクラスは吉野博さん、女流の部は笠井さんが優勝した。

 

運営に、一言お願いしたいことがある。Sクラスはさすがに時計を使っているが、Aクラスも時計がほしい。今年は参加人数が多くて盤・駒を追加したといっていたが、時計も何とかしてほしい。

 

最後に表彰式では新任の将棋部部長柳川理事から準優勝の賞状をいただき、和ちゃんを囲んで写真を撮ってもらった。

 

楽しい将棋の日だった。休日に運営で支えてくれた事務局の方々に感謝。準備から審判長から指導対局まで事務局を支え続けた谷川さん感謝。私に勝ちを譲ってくれた方々に感謝。うふふ。

 

【番外:打ち上げ】

 青山を歩いているときに、ぽつぽつと雨が落ち始めた。大手町の駅を降りたら、時雨がかなり強い。ほとんど傘を持っていなくって、中華料理店「華福」につく頃はずぶぬれ。

 将棋部の部長がこの4月から代わった。前任のリコーエンジニアリング河津社長の送別、新任の柳川理事(常務待遇)技師長の歓迎、新人の太田君と宮田君の歓迎、そして西川晶ちゃんの結婚祝いと盛り沢山な打ち上げとなった。

 三愛社長で将棋部顧問の渡邊さんも駆けつけてくださった。三愛だけに、ダンデイに更に磨きが掛かって、粋なジャケットを着こなしていられる。

 我が師範の屋敷七段も参加してくれた。剃髪という意表をつく手で。「いろいろありまして」と多くを語らないが、昨期取り逃がした順位戦の昇級を祈念してのことと勝手に解釈している。今年こそ、一日三分くらいは研究をして是非頑張っていただきたい。囲碁の武宮九段も今年は期すものがあってと、剃髪で登場していた。

 今年の囲碁将棋界は、このお二人から目が離せない。

 

 宴会がお開きとなった頃には大手町の鎌倉橋も時雨は去って、きれいな都会の墨絵のようなシルエットとなっていた。私も悔しさ半分、嬉しさ半分で透明な心境になっていた。来年はどんなドラマが待っているのだろう。

 (完:99年5月16日)

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