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イベント・レポート

第52回 アマ名人戦全国大会

月日:98年9月4日〜7日

場所:東京 晴海 『ホテル浦島』

リポータ:野山知敬 

前夜祭(9/4)

予選 (9/5)

2日目(9/6)

3日目(9/7)



前夜祭(9/4)

 いよいよ待ちに待ったアマ名人戦全国大会。私は5年ぶりの大阪代表。
 リコー関係ではすでに田尻が熊本代表になっており、再会が楽しみでもあった。今年の会場はすっかりなじみになったホテル浦島。

 前夜祭における旧友との再会も、全国大会の楽しみのひとつでもある。
 ホテル到着時にくじをひき、この席で予選ブロック組み合わせが公開される。私の予選1局目は大分の安藤耕平氏と。氏とは同年代であり、大学時代に一度対戦している。大分といえば早咲アマ名人・竜王だが、その早咲氏を大分名人戦3番勝負で破っての代表だから、油断ならない。
 田尻の相手は私の後輩である中村知義。こちらも大変だ。

 二上会長以下の長いごあいさつ(失礼!)のあと、旧友数人が輪になっての乾杯と歓談。しかし盤に向かえばすぐにライバルとなってしまうのがこの世界の厳しいところ。

予選 (9/5)

 1局目は先述した安藤耕平氏。氏の意表の陽動振飛車に対し、強引に攻めたが足らず、まずは完敗。実はこのアマ名人戦に備えて研究や詰め将棋にかなり時間を費やしていたのだが、それはいったい何だったのか・・・と思った。実に不安なスタートとなった。

 2局目は石川の湯元氏と。右玉に対し、銀をさばいて飛車先の歩を交換したが、2筋はそのままに4四角から2六歩と垂らされる右玉特有の戦いに逢って苦戦したがなんとか勝ってほっとする。これは実感。

 3局目、予選抜けという早くも大一番になってしまった。田尻は悠々と(でもなかったらしいが)2連勝で抜けてきている。
 さて、私の相手は新潟の北村透氏。事前の情報では振り飛車の名手で代表も十数回の強豪とのこと。四間飛車に対し、これしかないという私の棒銀。最近プロ間でも加藤九段ぐらいしか使い手を見たことがなく、九段が「棒銀も優秀な戦法なのにどうしてみんな指さないのですかね」と言っていたが同感であり、さびしく思う。玉を固めるばかりがいいわけではないと思うが、まあこれは私のスタイルであり、普段着そのままの姿なのである。
 内容は2転3転したが終盤で競り勝つ。なかなかの熱戦だった。

 ああ、これでやっと予選抜け・・・汗がどっと出た。応援にきてくれた豊岡さん、牧野、藤原君らと田尻を交えてのささやかな打ち上げ。ビールがうまい。やっぱり勝負は勝たないとね。

2日目(9/6)

 私はこれが5回目の代表だが、実は予選抜けまでが今までの実績で、1回戦負けの連続なのでここは負けたくなかった。

 1局目は青森の橋立氏と。奨励会出身とのことで、ここ数年続けて代表になっている。氏の四間飛車穴熊に私は4四角戦法。穴熊にはこれが面白くて連載している。氏に序盤でややうっかりがあり、優勢なまま押し切る。
 よし、これで今までのかべを突破した!とは実感だが、最終目標までにはまだまだ遠い。

 このあたりで我がリコ−将棋部のレポ−タ−、西田ブンさんが観戦に来た。
 牧野も藤原も見ている。ここは強いところを見せておかねば。一度ホテルの外に出て空気を思いっきり吸って深呼吸。でも、大都会の空気だからまずかったかな・・・?

 2局目は千葉の堀井氏と。彼は東大生であり、以前リコー対東大の全日本選手権大将戦で対戦しているが、そのときは右玉だった。今回は四間飛車穴熊。例によって私は4四角戦法。なかなか面白い将棋だったが、強引に攻めて一手勝ち。

 いよいよこれでベスト8「アマ名人が見えてきた!」ますます闘志が燃えてくる。いけるぞ!
 田尻も勝ち抜いている。正棋会の木村、中村も勝ち抜いている。
 ベスト8の組み合わせは以下のとおり。

  桐山 隆(栃木)−木村秀利(大阪)
  田尻隆司(熊本)−北村公一(山口)
  中村知義(京都)−野山知敬(大阪)
  柳浦正明(島根)−吉沢大樹(東京)

 8人のうち西日本が6人。最近の関東の層の厚さから考えるとこれは意外な結果かも知れない。

 さて、私の相手の中村知義は同志社大学の4年後輩であるが、もうここではそのようなことは関係ない。目前の相手は皆ライバルである。

 氏の中飛車に対し、よく用いる鎖鎌銀。交換した銀で5五の位を取ったがこちらも玉頭の3四歩を取られてお互い主張を通したかっこう。だが、押え込むはずが角銀交換を甘受する意表の手順でさばかれ、薄い陣形はいっぺんに崩壊した。ああ、神様は私をアマ名人にさせてくれないのか・・・
 秒読みで敗勢の中、涙が出そうに悔しくなった。でも、仕方がない。目の前に居て私を苦しめているのは後輩ではなく、ライバルなのだ。
 まだまだ研究が足りないんだよ・・・天の声が聞こえたような気がした。

 田尻は、と見ると北村氏とのぎりぎりの終盤戦。双方秒読みの泥沼を勝ち切っていた。あとで聞くと中盤から必敗形だったとのこと。北村氏もこの日の夜は眠れなかったらしい。それにしても強い。勝つということはすごいことだ。大変なことだ。

 さて、これで明日は桐山−田尻、中村−吉沢の組み合わせ。ちょっと予想は付きかねない。若さでは吉沢氏(早大大学院生)だが。

 田尻、小島−宏氏と3人で銀座へ繰り出す。(別に高級店に行ったわけじゃあないけどね)この3人で以前、将棋ジャーナルの言いたい放題座談会をやったこともあり、話がはずんだが明日は田尻が残っている。8時ごろきりあげてホテルへ戻る。

3日目(9/7)

 せっかく特別休暇をもらってきたのにここまで勝ち残れずに残念。でも、2日目最終戦で敗れた余韻が残り、とてもすぐに大阪へ帰る気はしなかった。
 この日は田尻、中村のいずれかが残れば最後まで見ていこうと決める。

 桐山−田尻は初対戦とのことだが、桐山氏得意の矢倉を避けて(?)田尻はひねり飛車。中盤ほぼ無条件に角が成れてあっさり優勢になったはずだが、さすがに桐山氏の追い込みはすごく、泥沼の終盤となっている。田尻の玉が中央で竜に狙われる展開になったときは逆転かと思ったが、逃げ切る。よし、すごいぞ田尻!

 もうひとつの中村−吉沢戦は中村の中飛車に吉沢氏が金銀を中央に繰り出す力戦形。吉沢氏が序盤からリードしていたが、終盤追い込んだ中村が即詰みを逃して再逆転。私としては田尻ー中村の、私にとってどちらが勝ってもうれしい(またはくやしい?)決勝戦を望んでいたのだが、これは仕方がない。中村も優勝の可能性は高いと思っていたのが、2度目の3位はやはりたいした実績だ。

 いよいよ決勝戦。
 このもようはNHKで放映されるので、早めに昼食をとって本番前のリハーサル。女性アナウンサーに

  「ここまで振り返っていかがでしたか」

 と聞かれて

  「いやー、2転3転ばかりでした」

 と適当に答えていた田尻だが、本番では

  「これが2度目の決勝進出です。以前は私も若く、紅顔の美少年でした。」

 あれれ、リハーサルのときと言ってることがちがうじゃないか。まあ今回は許そう。

 棋譜読み上げは安食女流、解説は塚田八段、聞き手は大庭美香女流。9/23に放映されるのだが、それを生で全部見ていたので実際にテレビで見るのとどう感じが違うのかというのも楽しみである。

 さて、先手は田尻。準決勝と同様にひねり飛車で、しかも同様の陣形となったが仕掛けはまったく違う方向になった。
 後手が4六の歩を狙って2四角と出た手に対し、先手はそれを手抜きして6,7筋から仕掛ける。と金を作った田尻が優勢になったが、やや緩手が出て終盤は混沌としてきた。見ていてまったくはらはらしたが、最後は貫禄で押し切ったというところか。やったぜ、田尻!最後の2五金を指したとき、思わず心の中でそう叫んでいた私だった。

 これで史上8人目の「2度目のアマ名人」となった田尻はインタビュー攻め。
 携帯電話も鳴りっぱなし。特に地元新聞社からのものが多かったようだ。きっと故郷の熊本では特段ででっかく掲載されるのだろう。本人も家族への素晴らしいおみやげを持って帰って最高の気分だろう。私も本当にうれしかった。

 田尻へのインタビュー攻めもようやく終わり、まだ3時頃で日も高かったので小島、遠藤、篠田、桐山氏らとホテルの喫茶店で小打ち上げ。地域を超えた仲間というのは素晴らしい。またの再会を約束して(私は来週も社団戦で東京に来るけどね)さようなら。
 最後にもう一度、この一言を。

「やったぜ、田尻!すごいぞ、日本一!」

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