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イベント・レポート

第74回 職域団体対抗将棋大会

  〜リコー(1)Aクラス優勝し、Sへ復帰〜


日時:1998年3月1日(日)

場所:日本武道館

主催:日本将棋連盟

参加チーム数:564チーム

リポータ:西田文太郎 e-mail : nishida@cs.ricoh.co.jp

雪桜

注目のメンバー編成

今回の狙い

チアリーダー

(4)軍1回戦

(4)軍慰安戦1回戦

他のチームはどうなった

(1)軍は優勝


雪桜

 今年の東京は雪の当たり年だ。朝起きると、家の回りは一面真っ白になっていた。私は スノーブーツにダウンのジャンバーという重装備で、出かけた。幸い電車は順調に動いて いる。地下鉄の九段下で降りて九段通りを少し昇る。
 左手の牛ヶ淵の向こうに見える北の丸公園は、芝生の上も桜の木も雪で覆われている。 桜の季節とだぶらせながら見ていると、きれいで、白く荘厳な雪桜だ。両側の雪満開の桜 を堪能しながら田安門をくぐる。
 勝利の女神もこの雪桜に寝坊などしていられない。雪に浮かれて舞い降りてくるに違い ない。

注目のメンバー編成

 アマチュア将棋のビッグイベントである職団戦、昨秋はリコー(1)が一番上のSクラ スでまさかの予選リーグ3連敗をきっしたので、初めてAクラスに陥落した。リコー(2) は、Sクラスに踏みとどまったため、今回は、(1)のメンバーをどうするのか将棋部内 でもホットな議論がかわされた。
 Sクラスでの優勝が目標だから、Sにいる(2)に上位陣を当てるべきという意見。逆 に、陥落した(1)を上位陣で固めて、反省を込めてSに復帰させるべきという意見。私 は、勝負事だからSで勝つのがいいと思っていたが、どうもそう単純ではないらしい。  こういうときに、はっきり自分の主張をもてるようになりたいといつも思うのだが、だ んだんどちらがよいのか分からなくなる。ちょっぴり言い訳をすると、将棋の場合は、正 解はたいがい一つなんだけど、社会生活上は正解があるのかどうかさえ、分からないこと が多い。もし正解があるとしても、複数解のことが多いように思う。
 主将の野山は、昨年の秋から、ずっとメンバー編成では頭を痛めていた。立場上も、迷 ってなんかいられない。野山は「私は昨年秋、Sから陥落した時点から来春はAで第一チ ームが出ようと思っていた」と語る。瀬良も次のように語る。「Sで勝つことの大変さは メンバー全員が身に染みて知っている。前回よりも戦力アップしていると言えないのに、 どうして前の轍を踏まないと言えるのでしょうか? また、前回下位陣が自力でS残留を 決めたのに横取りするのはおかしい。前回陥落した責任を負うべきメンバーが反省と出直 しの意味を込めてAから出たい」。
 通常リコーは大会直前の社内レーテイング順に、上からメンバーを決めるのを原則とし ている。その法則でいけばSクラスにいる(2)を(1)として、上位陣を当てることに なる。アマチュアの場合は、メンバーを固定することも結構難しいものがある。だから私 は、その時その時に参加できる人の中で、調子の良い順に上位チームで、出るのが、合理 的だと思う。
 しかしそれは内部だけの身勝手な理屈なのかも知れない。職団戦は全国から3千人以上 もの人が集まる大きな大会だ。将棋仲間ではリコーがどういうオーダーで出場するのか、 注目されていた。勝ちに行くのならSクラスの(2)に上位陣をいれるのが普通だが、倫 理的には、Aクラスの(1)に、上位陣が回る方が多くの人の納得を得られるような気が した。なりふり構わず勝てば良いというものでもないという感じがする。強いものが品位 を保つことで、その組織はより魅力を増す。将棋界が魅力を増しているのは、谷川竜王・ 名人や、羽生四冠が堂々と、王道を歩いているからだと思う。同じように矢倉が重要な地 位を占める勝負事でも、数の論理で魅力をなくしている土俵上とは好対照だ。

 最終的には、リコーの考えと主催者の将棋連盟の意向とが一致して、Aクラスの(1) に上位陣を持っていくことに落ち着いた。Aクラスで優勝したから言えることかも知れな いが、結果として良い選択をしたと思う。

今回の狙い

 メンバーが固まれば、自然と目標も決まってくる。若きエース、都名人を獲得したばか りの菊田がインドへ長期出張に出かけ、昨年の朝日アマ準名人の佐々木が友人の結婚式で 欠場。大ピンチだ。
 となると、Aクラス優勝、Sクラス残留が精一杯の狙いとなる。そして、Aクラスでの 優勝は何が何でも達成したいところだ。下手をすれば、Sクラスにリコーの名前がなくな ってしまう。
 長野オリンピックの金メダルジャンプ団体戦を見ていて、将棋の団体戦とよく似ている と思った。個人個人は自分の将棋を戦い、最後に残った対局にはものすごいプレッシャー がかかる。調子の波の大きい人もいれば、安定している人もいる。距離を伸ばすのはノッ クアウトパンチのようであり、飛型点は寄せに似ている。
 当然リコーの(3)軍から(7)軍も、東京リコーチームも各クラスでの優勝を目指す ことになる。

チアリーダー

 紅一点のマドンナ晶ちゃんが入部して、将棋を女性に広める会の地道な努力もあってか、 少しづつ女性の将棋ファンも増えているようだ。羽二重のマドンナこと小野三千代さんが 朝から応援に駆けつけてくれた。夕べは隣の部屋がうるさくて12時過ぎに目が覚めてし まい、寝不足だという。彼女はとても明るく積極的で、将棋のメーリングリストにも参加 している関係で、武道館には応援すべき人がたくさん居るらしい。全く有り難い。それな のに、4枚落ちで、この前の冬合宿での6枚落ちの敵をとってしまった。お弟子さん達の 応援に来ていた谷川治恵女流三段と「みんな強くなって」「勝たせて上げるのが一番です よね」などと話したばかりなのに。
 晶ちゃんも昼過ぎには来てくれた。今日は雪だからと、またもスコートはお預けだった。 更に「近代将棋」で晶ちゃんを知り、メールをくれた真澄さんもバックパックを背に登場 した。栄養満点のマドンナで元気のいい女子大生だ。これからも、遊びに来て欲しい。そ して、チアリーダー達も応援席から対局席にも来てくれるようになれば嬉しい。

(4)軍1回戦

 私は昨秋にレーテイングをどーんと落としたので本来なら(6)軍くらいの順位なのだ が、ぐちゃぐちゃの編成になったため(4)軍で、Cクラスに出た。1回戦は三菱重工業 (1)。こちらは、ラジコンに夢中で将棋の駒は放りっぱなしの大友さんを大将に、以下 西田、宮崎、安宅、土肥。振りゴマの結果、リコー奇数先。ということは私は後手番。相 手の大森さんは飛車を振ってきた。私は急戦に持っていきたかったけど、穴グマの構えを 見せられたので、こちらも穴グマにしてみた。随分久しぶりの穴グマだ。
 普通に穴グマに組み合えばやはり居飛車側が指しやすそうだ。右4間から有利に進めて いった。しかし終盤龍取り銀取りの攻防の角を打たれた。龍を逃げて銀をとられては詰め ろで負けだ。折角穴からひきづり出した敵玉を送りの手筋で、穴に戻し龍を詰めろで角筋 から外すか。それとも、龍を切って桂で王手をかけて一気に詰ませきるか。
 読んでいくうちに、どう逃げてもピッタリ詰みそうな気がしてきた。そのかわりもし詰 ましそこなうと、駒を渡すので、逆にこちらが詰んでしまう。穴に戻すのがしゃくだった し、詰むと思ったので龍を切った。そして予定通り桂を打つ。ここで敵の手がとまった。 きっと同じ読みをしていたに違いない。どうやってもピッタリ詰むのだ。
 ところが、読んでいるうちに、嫌な筋が見えた。それを考えると相手も気付くと思い考 えるのをやめて運を天に任せた。何しろ今日は幸運の女神羽二重殿がついている…はず… だけど…いない。あ、でも、向こうのテーブルでなにわのマドンナが白いセーターで対局 している。ちらっと目があって、笑顔と手を振ってくれた。
 そのおかげで、敵も嫌な筋はみのがしてくれた。どうして私が勝利の女神の存在を疑う ものか。
 しかしチームはこの1勝だけだった。みんな、勝利の女神が手を振ってくれたときに気 付かないからいけないんだ。

(4)軍慰安戦1回戦

 慰安戦1回戦は日立横浜。並び順は同じ。岩谷さんの四間飛車に対し新鷺宮定跡を試し てみた。なんと、数日前に椋木さんに教えてもらった局面になった。飛車を3九に深く引 いたら「お、新鷺宮」といわれた。そして3三の飛を3二に引かれた。ここで▲2二歩△ 3三桂▲2一歩成とすすんだ。あとで、椋木さんに聞いたら▲2二歩は△同飛ととられて 面白くないという。どうやら▲3三歩△同桂▲2一角の方がよいらしい。
 ということは本譜△3三桂に歩を成らずに▲2一角とすれば良かったことになる。と金 を作ったあともたもたしているうちに2筋の歩を伸ばされて、一気に不利になってしまっ た。
 負けたけれど、教えてもらった局面までたどり着けたし、その近辺を研究できたので、 印象深い1局となった。大体私は、定跡の覚えが悪すぎる。本質を理解していないから、 少し形が変わると、応用がきかなくなり、筋悪の手を選択していく。定跡はテニスのサー ブみたいなもので、ちゃんと覚えないとちょっと強いサーブの人に試合にならないのと同 じで将棋にならない。
 わかっちゃいるんだけれど、定跡を覚えるのは結構大変だ。でも、こうやって実戦で、 印象深い局面を経験していけば確かな記憶になっていくような気がする。
 チームは大将ひとりだけが勝っている。まずい、本戦も、慰安戦も1勝4敗では来季は 陥落だ。

他のチームはどうなった

 今回は、(1)軍のメンバー構成の件もあり、下の方も出場クラスと、チームの順番が ぐちゃぐちゃになってしまった。 
 Cクラスの(7)軍、2勝3敗、慰安戦も2勝3敗。副将の佐々木猛さん2連勝と一人 気を吐いている。
 Eクラスで(6)軍、1勝4敗が二つ。ありゃ、(4)軍と同じスコアだ。大将伊藤君 が羽二重のマドンナに秒読みしてもらったのに負けてしまったと悔しがっている。ふふ、 悔しいうちは見込みがあるさ。
 Bクラスに(5)軍。1勝4敗のあと、慰安戦で3勝2敗と頑張っている。しかも、こ こまで4人で戦ったという。高橋君、メンバーがぎりぎりなのに、何寝ぼけてんのかな。 田中さんと竹中さんが2勝をあげている。
 午前中でご用済みとなった私が、ここの3局目に大胆にも大将で、出て足を引っ張って しまった。皆さん、ごめんなさい。レベルは違いすぎるけど、ジャンプの原田さんの気持 ちよくわかるよね。合横歩取りで、敵は中原流、面白かったんだけど、負けちゃあね。局 後に矢口さんの指摘で、28歩と受けた手が悪手で、24歩と銀の頭を叩くべきだった。 ああいうのを震えるっていうんだろうね。今回は反省することが多い。でも、どうせ口先 ばかりだからなおらない。 
 Aクラスの(3)軍、1勝4敗、5勝(不戦勝)、2勝3敗か。岡田君が2連勝と、最 近勝ちまくっているね。
 もう一つ、東京リコーチームもAクラスを4人で戦って、2回戦まで勝ち、3回戦は2 勝2敗で不戦敗をいれて負けとは残念とうか、すごいというか。
 最後に、Sクラスの(2)軍。浜下、加藤、藤原、坂下、椋木の布陣で臨んだが、武運 つたなく1勝4敗、1勝4敗、2勝3敗と残留は難しくなってしまった。大将に座った浜 下さんのK点越えの大ジャンプを見ることが出来ないのが残念だった。

(1)軍は優勝

 さすがに(1)軍は強い。1回戦の東京都職員文化会(1)から快調に飛ばし、準々決 勝が金子タカシさん率いる日本石油中央研究所、谷川さんと牧野さんが終盤ひっくり返し て4勝1敗。準決勝が元学生名人の外山茂さん率いるNTTデータ通信(1)。ここは大 苦戦だったが、辛くも3勝2敗で、切り抜けた。決勝はソニー(1)で、4勝1敗で苦し い将棋も多かったがなんとか目標通り優勝した。トーナメントを6局勝ち抜くのはどのク ラスでも大変だ。
 豊島君が風邪で、熱を押して戦っていた。おまけに、金子さんや外山さんなどの強豪に 当たって、大変だったらしい。瀬良、野山、谷川が6連勝。牧野が5勝1敗、豊島が3勝 3敗といずれも好成績だった。
 羽二重のマドンナ殿は決勝戦で、応援しているリコーとソニーが当たってしまい、「ど うしよう、どうしよう」と身を裂かれる思いだったようだ。ま、リコー4勝、ソニー1勝 だからいいよね。
 何よりも、昨年不調だった谷川さんが蘇ったのが大きな収穫だ。それも悪魔の一着に磨 きがかかっての復活のようだ。牧野さんも神奈川県支部名人準優勝の余勢をかって5勝1 敗と新婚ぼけの汚名を返上だ。

 いろいろ話題と課題の多かった今回、(1)軍の優勝と春の雪と次の目標に乾杯。もち ろんチアリーダー三人にもサンキュー、乾杯。私に貴重な白星をくれたなにわのマドンナ にカンパアイ。

完(記:98年3月7日、改3月15日)

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