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イベント・レポート

リコー三愛グループ 第21回 東京支部将棋大会

リポータ:西田文太郎 e-mail : nishida@cs.ricoh.co.jp

●開催日 :97年5月17日(土曜日)

●開催場所:東京 青山、(株)リコー青山本社2階食堂



【あの素晴らしい夢をもう一度】
 つましい我が家のタンスの上に小さな写真立てが一つ。ルーズソックスの宏美ちゃんはこの3月に卒業したから、もう見ることができない貴重な写真だ。
 美しく愛らしい中倉姉妹にはさまれて、優勝カップを手にした嬉しそうな男が写真の中からささやく。
  「縁起を担いで昨年と同じ服に着替えて行きな」
 昨年Aクラスで初めて優勝したときのものだ。お気に入りの黄色いサマーカーディガンが見つからない。まだ夏冬の衣服の入れ替えもしていない。後でちゃんとするからなどとわめいて、押入の中から無理矢理引っぱり出す。

 今年は残念ながらリコー将棋部準師範代の中倉姉妹は来れないという。
 えっー、そんな、ひどいことがあっていいものか。事務局は何をやっているんだ。うーん、何を楽しみに参加しろというのだ、プンプン。今回はもう行かないっと。
 でも、リコーにはマジシャン谷川キャプテンがいる。出たっ、悪魔の一着。究極の高橋和返しだ。「ようし、今年は麗しの和様とツーショットの写真を撮って貰おう」と固い決意の元、カメラを用意する。ルンルン。


【神様に一つだけ願い事を聞いてもらえるなら】
 5月の中旬になったけど、五月晴れとはいかない。外苑東通りのプラタナスの並木は緑が勢い良いけれど、空はどんより乳色が垂れ込めて、絶好の将棋日和だ。

 青山本社の2階食堂にリコー三愛グループ約10数社から集まった61人の対局が始まる。
 S、A、B、Cと4クラス。
 Sのみ10人のスイス式、他はトーナメントで、1回戦敗退者による慰安戦付きだ。
 一昨年までは大山杯といっていたもので、今年は谷川(竜王)杯となるはずだったのに、おかしいな、事務局が忘れたのかな。
 昨年から場所が将棋連盟の座敷から青山の食堂に変わった。将棋の本山である連盟で指せないのは残念だけど、私は歓迎だ。
 理由は元リコー顧問の前田祐司七段と同じだ。
 将棋年鑑の棋士名鑑が傑作だ。「神様が一つだけ願いをかなえてくれると言ったら?」と言う質問に、「椅子で対局したい」とユーモアたっぷり。
 前田七段はあの巨体だから体重の重みが辛いのだろう、私は重みはそれほどではないけれど、長時間和室に座っているのは辛い。他の棋士も、この質問にはとても面白い答えを出している。

 各クラス別に対戦表が張られ、対局相手も入り口で抽選をして決めるので、スムースに進んでいる。事務局の人達は、自分で将棋を指すのかどうか分からないけれど、休日にもかかわらず、将棋愛好家のために裏方を務めてくれて有り難い。

【一回戦】
 Aクラスで優勝したら翌年はSクラスという噂もあったけれど、順当にAクラスに登録されていた。くじを引くと13番、なんとなくいやな数字だ。
 相手は大森月例会主催者で振り飛車党の安宅さんだ。
 一月ほど前の対局では気分を変えて相振り飛車をやってみた。相振りで、後々ふんだくろうとするかのように、笑いの止まらない勝ち星を贈られた。
 だから今日もよほど相振りにしようかと思ったけれど、私が指しなれていないから普通に三間飛車対急戦居飛車にした。
 序盤早々馬を作っていい感じ。強気にその馬を飛車と交換した辺りからおかしくなって、どうにも一手足りない。控えて打った△8四桂が7六に跳ねて万事休す。さえない休日になってしまった。
 こうなりゃ慰安戦も負けて和姫のご指導を仰ごうかと考える。しかし将棋部員は駄目とか言う噂が流れて躊躇する。

【慰安戦一回戦】
 「まさか慰安戦で当たるとは思わなかった」と言う竹中さん。
 彼の四間飛車に、久しぶりに穴グマにしてみる。「さっきもこんな将棋だった」「さっきもここに桂を跳ねて」「これもある、あれもある、こうやると角に成られる」、彼は対局中も終始にぎやかだ。
 さすがに、高橋和女流初段との指導対局では口をふさいでいたようだが。その甲斐有ってか和さんに勝ったと嬉しそう。
 穴グマに対して、桂跳ねから角銀交換の猛攻をしてきた。
 瞬間旨い角打ちが浮かんだ。ノックアウトパンチだ。これがうまく決まった。

 スーパーコンピュータのディープブルーがチェスのチャンピオンに挑戦して最終局を19手で勝ったという。ノックアウトパンチが来たのかもしれない。チェスは2手一組なので、将棋でいえば37手ということか。
 囲碁や将棋もいずれはコンピュータに勝てなくなるだろう。それでも人間同士の対局は楽しめると思う。特に、対女性戦やペア将棋は、コンピュータにはできない人間の技だものね。

【慰安戦二回戦】
 ウェブマスターの小川さんと、魚に春と書いて有るお弁当を食べる。ほかほかで美味しい。
 魚に春と書いて「さわら」と読むそうだ。さすがに学がある。もしかしたら、魚を見て読めたのかもしれないけれど、私はどちらからアプローチしても読めない。それでもパソコンを使えば簡単に鰆と書ける。

 相手の人は曽我部さんという。これもパソコンだから簡単に書ける。待っているだろうと思って急いでいくと、アレレ、和様に挑戦しているではないか。
 今日の出で立ちは黒のパンツに黒のショートブーツ、紫がかったグレーのシルクのようなブラウス、ショートカットに目元が涼しい。いいな、いいな、和ちゃんと指せて。おまけに勝ってしまった。「負けました」という和ちゃんの声は玄妙世界の鈴のようだ。

 彼とは初手合いだ。愛媛の出身だという、向こうにはかなり多い名字だという。若くてハンサムだ。アイラックという渋谷にあるグループ会社でリコー向けの制服を扱っているそうだ。
 四間飛車に振ってきたので、また穴グマにした。しかし、囲うまえに仕掛けられ、巧妙に位をとられて、大作戦負け。
 それでも辛抱してぐずぐずやっているうちに、金銀と角の2枚替えができて形勢が逆転してしまった。
 将棋は勝ってる将棋を勝ちきるのも難しい。ついつい有利だと安全勝ちを目指してしまう。それが不利な方の勝負手を呼び込んでしまう。面白いゲーム、面白い頭脳スポーツだ。それに、ルールがはっきりしていて、勝負の決着もはっきりしているから、勝っても負けても爽やかだ。


【慰安戦三回戦】
 三回戦がもう決勝戦だ。今度は吉中さんだ。公式戦は二度目の対戦だ。
 四間飛車から、穴グマ牽制の布陣だ。穴グマはあまり好きではないから、急戦にした。
 途中の分かれはお互い有効な手の発見に苦労する局面が続いたが、こちらがやや有利だった。 しかし、決め所と思って踏み込んだのが読みが浅く、端に二手かけた懐の広さを活用されて終盤で逆転してしまった。
 最後は、自分にかかっている王手をうっかり忘れて、敵に王手をかけて王様をとられてしまった。同じ負けるにしても、玉をとられるのは情けない。

 少し日に焼けた菊田さんが途中から顔を出した。オーストラリアに新婚旅行に行っていた。グレートバリアリーフがきれいだったと。奥様もとってもとっても美しい。なのに、きぬぎぬのお別れをしてまた暫くは新婚別居とか。もったいなーい。新鮮で良いかもしれない。私は結婚してから別居したのは最長三週間くらいだ。でも、やはり新婚と老後は一緒にいたいな。


【Sクラス初陣飾った豊島英君】
 久しぶりに期待の新人が入って、将棋部は明るい。
 強豪揃いのSクラスでぶっちぎりの四連勝と、鮮やかな優勝デビューだ。もっとも一軍のほとんどが出ていなかったので多少割り引かなければいけないけれど現役の強さが頼もしい。
 それに、駒の持ち方とたたきつけ方が素浪人のようで強そうだ。社会人になっても力を落とさず更に強くなれば素晴らしい。これからの一軍争いが楽しみだ。
 また、Sクラスには東京リコーの高橋さんという若手が初参加している。職団戦で、藤森・名田につぐポイントゲッターとして大いに期待のもてる新人だ。

 将棋部初の女性部員西川晶さんは途中から来るはずだったけれど、都合で来れなくなったとか。そう、来年は初心者クラスを作ってもらえるといい。花巻から参加してくれた人達もいる。遠くからでも来てくれるというのも、嬉しい。将棋という面白い頭脳スポーツをもっともっと大勢の参加で楽しいものにできたらいい。



 (記:97年5月17日)

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