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イベント・レポート

ペア将棋万歳 「キリン杯ペア将棋トーナメント‘97」

リポータ:西田文太郎 e-mail : nishida@cs.ricoh.co.jp

●開催日 :97年5月11日(日曜日)

●開催場所:東京 九段会館



【結果】
 5月11日、東京の九段会館で準決勝と決勝が行われた。
 準決勝第1局は、清水・深浦ペアの振り飛車穴熊に対し、石橋・森内ペアが玉頭位取りで押しつぶした。
 第2局は、中井・屋敷ペアが林・谷川ペアを相掛かりの熱闘の末、破った。
 決勝は、熱気冷めやらぬ中井・屋敷ペアが、石橋・森内ペアの横歩取らせ△3三桂を見事にしとめた。
 早指しにもかかわらず、三局とも面白い将棋だった。


【新しいゲームの誕生】
 この日の模様は我らが吉中さんが書いてくれるというので、私はパスしようと思ったけれど、ついつい指が動いてしまう。
 一人の将棋ファンからみたペア将棋というイベントにエールを送りたいからだ。

 将棋という頭脳スポーツは限りなく厳しい勝負の世界だ。
 特に、プロ棋士にとっては勝ちか負けかが収入や名誉に直結し、情実の入り込む隙間がない。それは傍目にはすがすがしい仕組みだ。
 ところが同じ将棋の駒を使っても今回のようなイベントにすれば全く違った新しいゲームの面白さを味わえる。
 囲碁では既にリコー杯プロ棋士ペア囲碁選手権というのがあり、これもとても面白かった。
 キリンは、昨年の秋に初めて秋味杯ペア将棋を開催し道を開いた。

【組み合わせ】
 秋味の時は、プロ棋士とアマとの組み合わせだった。
 今回はプロ棋士と女流プロ棋士との選抜で、いっそう魅力あるペアができあがった。
 公開対局なので早指しにしなければならないという時間の制約がある。
 すると、アマでは県代表クラスでないと秒読みで簡単に間違えてしまい、将棋そのものが面白味に欠けることが多い。
 その点、今回の三局は、さすがにいい内容だった。

 また、誰と誰の組み合わせになるかというのも興味深い。
 そして、どういうコンビがペア将棋に強いかというのもだんだん分かってくるだろう。
 優勝した中井・屋敷ペアは、茫洋とした屋敷さんにしっかり者の奥様という雰囲気で、ぴったりのコンビだった。
 準優勝の森内さんは昨年の秋味でも優勝しており、ペア将棋向きの気質を持っているようだ。

【作戦タイム】
 キリン杯の特徴に、作戦タイムというのがある。
 相手ペアにはヘッドホンで音楽を聴かせ、作戦タイムをとったペアは大盤の前で、二人でやりとりをする。
 この掛け合いが、それぞれの個性がでて、とても面白い。一分では少ないから三分くらいにしてほしい。
 決勝戦で、双方の読み筋が全く異なっているところなど、聞いてみなければ分からないものだった。
 しかも、対局に戻ると、全然違う変化になってしまう。

【豪華な解説者】
 普段衛星放送などでテレビでの将棋対局を見ている人も多いと思う。
 でも、羽生名人は対局する側がほとんどなので、めったに解説を聞くチャンスはない。それがこの日は、三局連投だから、たまらない。
 解説は歯切れがいいし、聞きたいことをスラスラと解説されると嬉しくなる。
 駒操作も自分でするし立ちっぱなしで、ご苦労様だった。
 最高のファンサービスだ。
 会場から「羽生さん名人戦頑張って」とかけ声がかかるのもうなずける。

 聞き手は中井さんと清水さんが空き番でつとめている。
 豪華この上ない。うまい役者は舞台の上で大きく見えるという。

 司会の渡辺徹は、この日とても大きく見えた。いつも大きいという説もあるけれど。
 盤面に現れた局面をみて、「これは女流プロのタイトル戦であった」など、台本だけでは言えないせりふがぽんぽん飛び出して、将棋ファンならではの名司会ぶりだった。
 それにつられるように、出場者の対局前のインタビューで、皆それぞれ異なる強気の表現が会場を湧かせる。


【抽選会】
 これも秋味杯からの継続手でなかなかいい。
 どのペアが勝かを予想し、勝ったペアが抽選を引く。賞品もそのペアから渡してもらい、握手もできる。
 予想が外れた人にも同じようなチャンスがある。

 会場が広いせいか、若干観客が少ないような気がした。連休直後ということもあるだろう。母の日ということもあるだろう。
 そして入場料金が三千円と、やや高いかなという感じがする。
 せめて、女性二千円、子供一千円などと工夫をしてもらえるとまわりの人を連れていきやすい。
 これからもこのイベントは続けてほしい。



 (97年5月12日 記)

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