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イベント・レポート

リコー杯プロ棋士ペア囲碁選手権 1996年

    3回戦、準決勝

日時:1996年12月21日(土曜日)

場所:ラフォーレミュージアム六本木

リポータ:西田文太郎 e-mail : nishida@cs.ricoh.co.jp
ペア囲碁
3回戦の組合せ
応援
準決勝

ペア囲碁

 囲碁のプロ棋士の男女32人がペアを組み優勝を争う、何て魅惑的なイベントだろう。

 会場では8組のペアが4つの固まりとなって3回戦を戦っている。
 観客はロープの外から間近で立ち見か、大型モニターの大盤画面を座って見るか好きな方を選べる。
 持ち時間は準決勝までは各ペア40分、のち1手30秒の秒読み。
 男女交互に1手ずつ打ち、相談は無しだ。
 決勝戦は1月18日にハワイで行われる。
 優勝賞金が500万円と豪華だ。
 会場ではリコーの2色複写機で、赤と黒で記録された棋譜の赤黒コピーをもらえる。


3回戦の組合せ

 何処も、魅力的なカードになっている。
 間近で見るプロ棋士の姿にはどきどきしてしまう。
 梅沢さん・穂坂さん・泉美さんはテレビで素敵さに見慣れているけれど、他の女流棋士も皆さん素敵なのだ。


 石田芳夫九段・穂坂繭二段ペア  × 結城聡八段・知念かおり二段ペア
 小林光一九段・小林泉美初段ペア × 王立誠九段・宮崎志摩子三段ペア
 加藤正夫九段・青木喜久代六段ペア× 小松英樹九段・八代久美子初段ペア
 大竹英雄九段・佃亜紀子初段ペア × 武宮正樹九段・梅沢由香里初段ペア


応援

 我が将棋部のKさんが海よりも深あい訳あって、梅沢由香里初段の応援にきている。
 何故か私は同歩の1手。

 梅沢さんはNHKの日曜日の囲碁の番組で司会をやっているのでおなじみの方も多いだろう。
 我が家のテレビがぼろいのか、テレビで見るよりやや細面に見えた。
 パートナーは武宮正樹九段で、相手は大竹英雄九段と佃亜紀子初段のペアという好カードだ。

 ベストドレッサー賞に輝いたという武宮ペアが先手で、5目半のコミ出し。
 碁石を入れるごけは二段重ねになっていてペアそれぞれの前に石の入った半分のごけが置いてある。
 しかし読みに集中してくると各ペアの左側に位置している大竹九段も、梅沢初段も右手で打つから右側にいるパートナーの前にあるごけから石を取って打ったりしている。
 碁盤は将棋盤より大きいから二人で並んで座っても丁度いいぐらいだ。

 梅沢さんは黒のタートルネックのセーターに金色のシンプルなネックレスで、動く度に金色のイヤリングが揺れている。
 上品な赤のタイトのツーピースに白く美しい顔が映える。
 私にはオードリー・ヘプバーンのように思えてならない。
 隣の武宮さんも紫色のジャケットがお洒落で格好いいコンビだ。
 ローマのスペイン広場に二人を置いて映画を撮ってもらいたいものだ。
 時々左手で髪を掻き上げたり、観客の視線で穴の空くのを避けるかのように左手の甲をおでこに当てたりするどの仕草も絵にならないものはない。

 途中で、遠方の小林親子ペアの所からどよめきが聞こえたり、石田・穂坂ペアが笑いをかみ殺している姿が見えたりする。
 いかにもペア囲碁ならではのほのぼのした雰囲気だ。

 武宮さんと大竹さんは自分の手番の時はほとんどノータイムで打ち、持ち時間はパートナーに譲っている。
 突然、大竹九段と武宮九段の爆笑が聞こえる。
 梅沢さんの着手が余程突飛だったらしい。
 梅沢さんは顔に両手を当てて笑っている。
 武宮さんも何度も爆笑する。
 梅沢さんも笑いが止まらない、涙もでるのか目尻に指を当てるほど笑い転げている。
 かといってそれで駄目になるほどの悪手ではないようだ。
 局後に梅沢さんは「笑われるかなと思いながら打ちました」といっていた。
 その後は、どうしてもこの手を思い出すのかしばしばこみ上げる笑いと戦っているようだった。

 私の立っているところからは佃さんのベージュの背中と梅沢さんの姿が見え、盤面は左辺しか見えないので仕方なく梅沢さんの顔を見ているので、楽しい。
 頬を膨らませたり、下唇を突き出したり、目の下の皮をつまんだり。
 秒を読まれて、「25秒、28秒お打ち下さい」といわれて慌てて武宮さんの前のごけの石をつかんで着手して、両手で髪を掻き上げ椅子の上にのけぞったり。

 武宮九段の「参ったな」が出始める。
 確かいいときにでる口癖だったと思う。
 大竹さんが秒読みぎりぎりまで考えたりする。
 局面は黒がリードしていそうだ。
 感想戦では「いい勝負」で、大竹・武宮両九段の意見が一致していた。

 左辺でコウを始めたが、武宮さんがコウ立てを作り梅沢さんが抜く展開でラッキーな巡り合わせだ。
 ところがしばらく進んだとき突然梅沢さんが打った後、顔を両手で覆う。
 武宮さんがぎゃーという感じで苦笑い。
 「ごめんなさい」「ごめんなさい」と梅沢さん。
 「いやあ、参ったな」と武宮さん、「ノータイムで当てる所を考えているから変だなと思っていたんだ」とも。
 準決勝も間近で武宮ペアを見たかった私たちも参った。

 でも、1局だけでも楽しい応援観戦が出来た。
  厳しい勝負の世界の日々の中にふとオアシスのように出現した「楽しみ」たっぷりの勝負の棋戦、将棋のプロのペア将棋もみたいものだ。


準決勝

 小林親子ペア×結城・知念戦は小林光一九段の「伸びてくれると思ったのにな」という絶叫で結城ペアが勝った。
 小林泉美さんは泣き出しそうなところを必死にこらえてお父さんの指摘を神妙に聞いている。
 Kさんと「厳しいね」などと言っていたら、少し戻して中盤のある手をさして、「うん、コレはお父さんより良い感覚だったね」とほめる場面もあった。

 大竹・佃ペア対加藤・青木ペアは大竹ペアが勝った。
 感想戦には林九段の顔も見える。
 大竹九段は「加藤さん、あんたばっかり時間使ってかわいそうだよ」とか「ここはこんなもんで充分だったんじゃないの?」とか言うと加藤正夫九段が「いや、ここはもう相当細かいんで、行かないと」などと切り返している。
 大竹九段の声や、小林光一九段の声がくっきり聞こえ、分かり易い。

 壇上に上がった決勝進出ペアはさすがに嬉しそうで、特に知念さんと佃さんの笑顔が可愛い。
 最後の寸評で大竹九段は知念さんと佃さんを「度胸がいい、執念がある」とほめていた。
 司会の白江治彦七段が観客に決勝の予想を聞いたら、多くの手が結城・知念ペアに上がっていた。
 それにしてもハワイでの決勝戦とは粋なものだ。
 ハワイに行けない人もインターネットで観戦できるそうだ。

 (記:96年12月22日)
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